1-6-b はじまれますか?
「では、わたしから
「く、くだしちゃダメだよっ……?」
「その意気ですわー」
話がズレて毒気を抜かれ、思わずユウキは大きく息を吐きだした。たった数秒でとてつもなく疲れたようでもある。それでも、思いつめていたときよりはいくらか軽い。
ユウキもまた、雀夜の目を見て向き直した。
「音楽、したことは?」
「ありません」
「好きな、歌とか……」
「ありません」
「……それでも?」
「はい。魔法があるなら」
雀夜はどこまでもよどみない。とはいえ、確信はあるらしかった。
そしてそれは正しい。
基本は
ユウキも当然理解していた。それでもなお踏み切れなかったのが、初めてコミューンに所属して半年契約者なしの原因でもあった。だからこそ、雀夜の迷わず踏み出そうとする決意を、頼もしいとも感じたのだが。
「……わかった。契約しよう、間鋼雀夜ちゃん」
ユウキはぎこちなくもうなずいた。
短い両手を胸の前で合わせる。間を置かず、手のひらの合間でパリッと黄色い火花が散った。さっと広げた両手のあいだに、なんの装飾もない白いチョーカーが現れる。
「これをつけて、目を閉じて」
雀夜は受け取って、うながされるまま装着し、まぶたをおろした。夢に身を投げるように。
「心に浮かんだ言葉を唱えるんだ。集中して……」
「……赤だし。豚角。きゅうりの――」
「おなか空いてる?」
「ぐう、しかし我慢。……内なる銀河を、我が道に――……グローリィ・アウト」
「承認。……じゃあいくよ?」
ひよこ色のマスコット、ユウキは
――アクティベート。コード:『ジャギー★ロッダー』、グローリィ・アウトッ!
ぞっ、と風が起こり、雀夜は目をあけた。
あごの下、首もとにはめたものから、青白い光があふれだしている。
ほの温かく、肌を伝うとぬめるような質感のあるふしぎな光だ。
光が衣服を飲みこみ、新しいものへ変えていく。
とけるように飛び散ったブレザーとスカートが、首もとから縦に伸びて体の前面を覆う。つながったスカートは股下へもぐりこんで、ローライズのボトムに。
シャツからちぎれた光が指先にからまり、新たに這いのぼって長いグローブとなる。
ソックスも一度ほどけ、鋭利な
軽やかに広がるロングスカート。それはくるぶしをも隠すかに見えた。しかし、不意に片側のソックスが爆発した。
光が激しく噴きあげ、ほとばしる火花がむき出しの肩と腰のそばに集まる。
風を
そのプレートからさらに火花が飛び、雷撃がめぐる。
何倍にも伸長したポニーテールが、先から
マスカラはるり色に。ルージュはふじ色に。
最後、
雀夜は自身の姿を見おろしていた。
爆風でめくりあげられたスカートは、ちぎれたガーターで
その
深い
手の動きには干渉せず、重さも一切感じない。まるで紙でできているようだ。
しかし、鈍く照り返し硬質さを放つそのツヤはどれも本物の金属のそれで、雀夜はサメの歯のようにそろって
「思っていたより……攻撃的ですね」
「ま、まあなぁ?」
ようやくつぶやいた雀夜に、苦笑まじりの相づちを打ったのはヨサクだ。彼も驚いているようだった。
「元は戦うための魔法少女で、言っちまえばその機能の使いまわしだからな。ここまで強そうなのは、めずらしいっちゃそうだが……」
「では、天使たちに
「マジで鉄拳じゃねえかっ。しなくていいしなくていい!」
本気か冗談かもよくわからない物腰でのたまう雀夜をいさめつつ、ヨサクは
ユウキはすぐハッとなったが、雀夜を向き合えばふたたび体が固くなってしまう。
「契約、完了だよ。おめでとう、でいいのかわからないけど……雀夜ちゃん。これからよろし――」
「ちょっと、見てッ!」
ユウキが言い終えないうちに、キッカが悲鳴じみた声をあげた。
上空には太陽のように、琉鹿子の黄色いキラメキ・クリスタルが輝いている。
その隣り、自分たちのまっすぐ上、まるで天体模型の、太陽から見た地球のような位置に。
黒い、黒い石が浮いていた。
いまにも消えてしまいそうなほど、小さな小さな黒い石が。
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