1-2 泊まりでいいですか?
魔法少女のコスチュームプレイを
という誤解を解くのにまただいぶ時間を要してしまった。厳密には途中で少女のほうが、ずっと全裸で立っていてクシャミをすることになり、鼻水をすすりながら「まあ、なんでもいいです」と雑に折れただけ。もう一度シャワーで温まり直してもらってから、いっしょにホテルを出ることにした。
「
道すがら、いまさらのようにユウキは少女の名を聞いた。秋も終わりに近づく肌寒さの中、湯あがりのうなじをさらし、結い直した長いポニーテールが揺れる。ブレザーの制服を着た彼女の持ち物は、下着と
「お話ししたとおり、行くあてはありません。
「や、どっちも違うんだけど……」
先を歩いていたユウキは眉をハの字にして途方に暮れつつ、恐れずついてきてもらえていることに
「まあ、きみの希望は、だいたい叶うと思うよ、間鋼さん」
「雀夜で結構です」
「う、うん。雀夜さん」
「雀夜ちゃんで結構です」
「さ……雀夜ちゃん?」
「はい。ここですか、ユウキさん?」
ユウキは、いままさに入ろうとしていた
「……お金は持っていなさそうですね」
「ヴッ……ま、まぁ、部屋は余ってるから……」
「おや。
「管理……はしてるかな。人には貸してないけどね」
建物わきの外階段をのぼり、二階で唯一窓に明かりが見える真ん中付近の部屋、
結果、部屋から飛び出てきたクラッカーの破裂音と紙テープ二発分は、すべて雀夜が頭からかぶる羽目になった。
「おめでとぉーっ、ユウキちゃぁーん!」
「元気出せぇぇーッ、ユウキぃぃぃぃ!」
少女のほうは、左右の耳の上でむすんだ明るい色の長い髪を振り乱し、まるで自分の誕生日のように興奮している。隣りで目線がそろうよう
紙吹雪がひとしきり落ち切ったところで、先に少女が「ふわっ!? ユウキちゃんじゃない!」と血相を変えた。男も「おっ? てことは……」とつぶやきながら色眼鏡をさげ、最初から喜色を浮かべていたらしい両目を
「た、ただいま、ふたりとも……」
扉のかげからユウキがじわじわ顔を覗かせる。青ざめきったその顔を見つけたツインテールの少女が余計に目を丸くして、握っていた発射済みのクラッカーを床に落とした。
「だ、だいじょうぶ、雀夜ちゃん……?」
ユウキの手がおずおずと雀夜の頭に伸びるも、そこに引っかかっている黄色い紙テープを取ろうとして取らないような距離でそわそわしてしまう。その反対側で「わぁぁぁっ、ごめんなさいごめんなさいぃ~~ッ!!」と
「やるじゃねぇか、ユウキぃー」
その少女のうしろで、男はかがんだまま動こうともせず、かけなおした色眼鏡越しの視線をユウキに移す。男が浮かべたへらりとした笑みに、見おろすかたちのユウキは引きつった苦笑を送り返した。
「先輩はいま〝
「
「なんのバランスですか……」
「……ユウキさん」
気がつくと、雀夜がユウキのほうを振り向いていた。その両手は、彼女の胸より低いところでわたわた動いていた少女の肩を押さえていて、
「こんな小さな子までビデオに?」
「ブッ!?」
「ぶはぁーっ! 嬢ちゃん、それマジかよ!」
たちまち目をむいて顔面
「びでお?」とツインテールの少女がふしぎそうな目をして顔をあげる。
「アパートまるごとを撮影所にしているというのではないのですか?」
「さ、撮影から離れようよ……」
「いやー、わかるわかる。店の外で看板持ってそうだもんな、コイツ」
「えぇえッ!?」
いまだかつてないほど
「先輩がッ、コレで登録しろって言ったんじゃないですかっ!」
「おう。だーって、似たようなモンじゃねーか」
「そ、そんなぁ!?」
「ちょっと」
ユウキが
キッチン直付けの短い廊下の奥、居間との境に垂れさがる古くさい
「キッカさん……」
ユウキが途端に緊張した様子で名前らしきものを呼んだ。『キッカ』はそのユウキとずっとしゃがんでいる男に視線を向け、鼻から重く溜め息をつく。
「いつまで玄関でやってるの? ドアもあけたままで非常識よ。お客さんも来てるのに」
「そ、そうだ! ごめん、雀夜ちゃんっ。先に入って?」
ユウキがバタバタとあわて始め、ひとまず少女を離した雀夜は、「では、お邪魔します」と告げて
居間の境で腕を組んでいた女が、打って変わっておだやかな顔をしてほほ笑んでいた。瞳は森を映した湖面のように深く
その色にか、
「入って待ってて?」
そう言いおいて、緑の目は雀夜と入れ違いにユウキたちのもとへ向かった。「ほら、お茶くらい
にぎやかしい玄関をしり目に、雀夜は居間へと足を踏み入れる。
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