ウィッチ・ザ・ロックと呼ばせんな!
ヨドミバチ
Chapter 1 READY STEADY GO??
1-1 ほべつってなんですか?
――パパになれ、ユウキ。
うさんくさすぎた助言が福音のように思いだされ、ユウキはついに覚悟を決めた。
駅裏にあるビジネスホテル四階の一室。ダブルベッドのふちに背すじを伸ばしてユウキは
シャワールームからは水音。聞こえはじめて、まだ五分にも満たない。
下がり
すべて、コミューンリーダーであるヨサクのアドバイスにのっとった選択。今日この機会を得たのも、最初からヨサクのサポートありき。
しかし、流れでホテルまで来てしまったことはユウキの責任だった。最初から一度もうまく話せてなどいない。いまからこじれないように説明できる自信もあるはずがない。怒らせて元も子もなくなるかもしれない。
それでも、あの経験豊富な大先輩が引き合わせくれた機会なのだ。だいいちあとだってない。彼女がシャワーから出てきたときこそ、ユウキにとって最後のチャンス。
水音がやむ。
思っていたよりは早い。しかし、ユウキの胸にともった火は揺るがない。
脳裏にヨサクの声がよみがえる。
――時間だ。なってこい、パパに。
「……なります、先輩!」
小声で気合いを入れたところで、浴室の扉がひらいた。
したたる水が床を濡らす。
勢いよく振り向いたユウキは、一瞬で胸の火を吹き消され、固まってしまった。
衣類、ではないだろうが、出会ったときからかけているメタルフレームの眼鏡だけが、いまは彼女の唯一の装身具だった。その奥に
その恥じらいのなさも含め、想定を超える事態にユウキの頭の中ではたちまち
第一印象は飾り気のない地味な子だった。化粧気もなく、美人のうちには入るかもしれないが、記憶には残りづらそうな顔をしている。SNSで出会いを探すようなタイプには見えないというのが、ユウキの正直な所見でもあった。だからこそ、他人とホテルに入るのが不慣れなら話をしやすいかもしれないと、下心があったことも否めないが。
しかし、目の前にいる彼女の堂々たる様――さっさとシャワーへ向かった時点でかすかに違和感を抱いてはいたが、もしやという考えがユウキの頭にも湧いてくる。
「どうぞ」とだしぬけに彼女が言った。
固まっていたユウキは「へっ?」と奇妙に高い声で応じてしまう。若さのわりに低く重みさえある彼女の声と、比ぶべくもないほど情けない声だった。
しかし彼女は気にしたふうもなく、「次を」と短く付け足して、目線でシャワーへ行くよううながした。
「あっ!? いやッ、ボクはっ、その……」
「……? 待ちきれなくなった、とかですか?」
泡を食ってまごつくユウキを見て、小首をかしげた彼女はそんなことまで平然と口にする。いよいよもってユウキは目を白黒させた。
「や、えぇっと……もしかして、こういうの慣れてる?」
慣れてる場合は勝手が違うから気をつけろ、とは大先輩ヨサクの教えだった。が、
「いえ、初めてです」
「初めて!?」
「はい。ああ、これはこのほうが、話が早いと思ったので」
ユウキの問いの意味を悟ったらしい彼女が、濡れたままの胸元にそっと手を当てる。目立つほどでもないが立派にふくらんだ肌に指が沈み、そこから鎖骨まで
「謎の長い導入をカットしてみました」
「謎の長い導入!?」
「常態化しているということは、需要があるのかもしれませんが……で、どうしますか?」
「は、はいっ?」
「お風呂。あるいは、いっしょに入ってほしいとか」
「ああ! えっ、や、そうじゃなくてっ……!」
「なしでもかまいませんよ? タイパはいいですし。ただ先に条件の話を」
「や、そういうのでもなくて……ッ」
「……?」
さすがに淡々としていた彼女も、いぶかしげに目を細めはじめた。焦りうろたえながらもユウキは必死に頭を整理し、「条件……そうだっ、条件は!」と、思いがけず彼女の言葉から拾いあげたものをつかんで、ベッドから立ちあがった。
「お願いがあって! その、きみに……!」
身長は武器になる、とヨサクは言っていた。思いきって180センチに設定しておいたおかげで、目の前にいるやや規格はずれな少女と向き合っても余裕がある。ただし、そのぶん威圧しないようにな、ともしつこいくらい言われていた。白いスーツ、サラサラの金髪、黒い目とトゲのない顔立ち。技術に自信のなかったユウキは、先輩の意見を素直に取り入れ、
にもかかわらず、いまや詰め寄るような態度で、しかも一糸まとわぬ無防備な少女を相手に興奮した面持ちで、ユウキは話をしようとしていた。元々そうすることでしか持ちだせないほどに、自分にとっても、そして彼女にとっても、長い長いこれから先の未来のきらめきにかかわる、重たくて大切な話だっただけに。
言葉にしてしまえば驚くほど軽い〝お願い〟だから、ユウキは姿勢を正してまっすぐにこうべを垂れ、そして口にした。
「ボクの、魔法少女になってくださいっ!」
「…………なるほど。愛人契約」
「え?」
――Let's get started! Ready steady....?(さぁ、いくよ! 用意はいい?)
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