第14話 未来は変わった

 みぞなは父につれて行かれた後。彼女は一週間以上学校には行かなかった。

 帰りのHRが終わり、彼は誰もいない体育館の裏で自称女神と話していた。


「なあレベッカ。みぞなの様子は大丈夫かな」

「ええ、大丈夫ですよ」

「そうか。ならよかった。ところで俺はいつ帰れるんだ?」

「え? 今すぐ帰れますけど?」


「はい? もう帰れたわけ?! それを早く言ってよー。いつからそうだった?」

「彼女がショッピングモールに行ったときからです」

「えー。だったらその時にいえばよかったじゃん。いや、途中で帰るのは良くないよな」


「言いたかったのですが、竹山さんが聞かなかったから……」

「あれそうだっけ? それは俺が悪かったな」


「それでは、今帰ればあなたは有名漫画家になっていますね。億万長者です」


「んじゃもう帰るか。みぞなに会えないのはさみしいが、未来でも会えるからな。ということは、板倉も、みぞなも運命が変わるのか」


「ええ、そうですよ。板倉さんは、就職に失敗してフリーターになっています」

「かわいそうだけど。妥当だな。改善したけど、俺のこといじめてきたしな」


「でも目標であった。河愛さんの未来も閉鎖病棟に一生入院はなくなりました」

「はあー、よかった。俺。それが心配で……。んでどう変わったんだ」



「――はい、彼女は命を落としました」



 この一言に空気が白銀世界のように凍えるような感覚だ。

「命を落とした……。だと」

「そうです。父親の監禁によって餓死しました」

「……嘘だろ」

「嘘じゃないです。逆に未来が変わってなかったら。父親の方が亡くなっていましたね」


「もしかしてさ、未来が変わる前のとき。みぞなが殺した相手って……」

「はい、彼女の父親です。勉強疲れが理由で包丁を振り回し、彼の体に傷を負わせたんです」

「なるほど、納得するな。俺もあいつが嫌いだ」


「まぁ、彼女は亡くなった訳ですが。それでもあなたは漫画家になっているわけで。もう関係ないことですよ」

「関係ない……?」

「さあ、彼女のことは忘れてもう帰りましょうか」


「ふざけるなよ……」

「ん? どうしましたか?」

「帰れるわけないだろ! みぞなが死ぬ未来を無視してなんてさ! 俺はできない!」


「でも、彼女を助けると、未来がまた変わりますよ」

「変わってもいい! みぞなが助かるなら!」


「あなたの漫画家の夢が叶わなくなりますよ。それでも?」

「夢は、夢だ。俺はあいつの希望なんだ! 現実を見捨てて夢を叶えても意味がない!」


「……。ここで河愛さんを助けるなら別にかまいませんが、代わりに竹山さんの夢が一生叶わなくなりますよ。その覚悟はありますか?」

「あるに決まっているだろ? 俺はみぞなのダチだから!」


「……彼女はいい友達を見つけましたね」


 レベッカは微笑みながら竹山に目線を合わせる。

 すると、体育館裏に誰かが現れる。彼を散々いじめてきた板倉だ。


「なあ、モヤシちょっと話いいか?」

「はい? そんなのいやに決まっているじゃん。わかんないかな?」

 竹山は煽りながら言葉を吐くと。板倉は申し訳なさそうに土下座をする。


「あのときはすまなかった! 本当はお前のアイデアおもしろいと思っていたんだ!」

「はあ?」

「俺。恥ずかしくて面白いと言えなかったんだ。悪いこと言って、本当にごめん!」


 赤髪の彼にたいして、モヤシ体型の高校生は怒りを覚える。

 いくらなんでも、都合が良すぎるからだ。


「それ言われて許すやつなんているか?」

「許されないとわかっている! だけど、俺のせいで傷ついてたらごめん」

「わかった。わかったから。顔を上げろ」

「え! 許してくれるのか――」


 そのとき、竹山は板倉の顔面を殴る。

「いったぁ!」

「俺は優しいからな。このぐらいで許してやる」


「そうだよな。本当にすまないと思っている」

「もし俺の心が弱くて、自ら命を絶とうとしていたらどうするつもりだったんだ?」

「お前の性格なら、大丈夫かなと……」


「大丈夫なわけないだろ! 俺はそのあと鬱になったんだぞ」

「鬱……、思ったんだけど。なんで未来の出来事がわかるんだよ」


「……もう言ってもいいか。俺は未来からタイムスリップしてきたんだ。信じられないと思うが……」

「未来から――。信じられないが、嘘でも信じるしかないな」

「――そうか。話が早い。助かる」


「未来の俺はどんなことしているんだ?」

「さぁな。聞いたところ。フリーターをやっているみたいだぞ」

「へー、ありがとうな。竹山は何やっているんだ?」


「別にいいだろ。そんなこと。話は変わるが、どうして俺のことをいじめたんだ?」

 竹山が質問するも、板倉は黒髪男子に目を合わせない。

 

「……絶対に言わない」

「何で言わないんだ? 俺はひどい目に遭ったんだぞ! いじってきた理由があるだろう!」


「わかった。ハッキリ言うよ。お前は……」

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