第13話 予想できなかった未来

「今日はありがとう。しんぞー。こんなことは初めてだよ」

「お前さ、下着屋に行っていたが、お袋はいないのか?」

「うん。いないよ。私が小さい頃に亡くなったから」

「亡くなった……」


「うん。それでお父さんが代わりに私を育ててくれたの」

「……それで、そのお父さんは優しいのか?」


「……うん優しいよ。とても」

「そうなんだ。よかったよ」


 唐突にレベッカは竹山に話しかける。

「彼女の母親は三歳頃に亡くなり、勉強好きは父親から教わったものですね」

「……そうなんだ」

「河愛さんの幸せはそれだけしかなった。勉強だけがすべてなの」


「……あいつは必死に生きるため。幼少期を過ごしていたんだな。俺はそれを知らずに――」

「ですが、あなたのおかげで、勉強以外の楽しみを見つけたのです」

「……」


「きっと彼女は竹山さんのこと好きだと感じています。あなたも河愛さんのこと好きなんでしょ?」


「な! 突如に何言っているんだ! 俺はみぞなのこと友達しか思ってないぞ」

 みぞなは大声を上げる竹山のことをじっと見つめる。


「ふふふ。ありがとう。しんぞー。私も素敵な友達ができて嬉しいの」

 黒髪の青年はホオズキのように頬を赤らめる。

「……いいってことよ」

 竹山はにっこりと笑う。みぞなも嬉しそうだ。



 夕方になり、ショッピングモールから帰ろうとする二人。

「いやぁー楽しかったね。しんぞー」

「あぁ、俺もよかったよ」

「この時間が永遠に続くといいな」

「……それはどういう意味?」


 すると、みぞなは顔を青ざめる。竹山は不思議そうな表情だ。

 ピンク髪の少女の目の前には彼女の父が立っていたから。


「おい、みぞな! これはどういうことだ!」

「お、お父さん……」

「あ、みぞなの親父か! こんばんは。俺のな……」


 父親はいきなり、竹山の顔面に向かって思いっきし殴る。

「俺の娘に何したんだ! 言え!」

「俺はただ、みぞなとショッピングモールに行って……」

「なに! みぞな! 嘘ついていたんだな! この親不孝者が!」


 みぞなの父はピンク髪の少女の首をつかみ、そのまま強く握りつぶす。


「痛い、痛い。やめて。お父さん……」

「うるさい! お前にはお仕置きしないといけないな」


 竹山は気分悪そうに彼女の肉親に向かって叫ぶ。

「なにやっているんだよ! 親のクセに子をいじめるな!」

「うるさい! この子は俺の娘だ。お仕置きするのも俺の勝手だ」

「なわけねえだろ!」


 竹山はみぞなの父親に対して殴るように攻撃をしかけた。

 だが、男性は華麗によけ、逆に竹山の首に向かって拳を振りかざす。

 攻撃は命中し、黒髪の男子高校生はその場で倒れた。


「ぐっは……」

 悔しそうに気絶をする竹山。みぞなの父親は娘を連れ、家に帰ろうとする。

「帰るぞ、みぞな。今日から誰も会わせないように部屋に閉じ込めるからな」

「いや、やめて。お父さん」

 みぞなは、イヤイヤ家に帰らせる。



 竹山は気がつくと自分の部屋にいた。彼の実家に戻ってきたのだ。

 なぜ戻ってきたかというと。

「レベッカ。お前が俺を家に連れて行ったんだな」

 そうホットパンツの女神が彼を助けたのだ。


「……さっきの場所で寝てたら、風邪引きますからね」

「大丈夫さ。俺はバカだから引かないよ」


「そうなのね。あと、これで未来は完璧に変わりましたので、試練は終わりました」

「終わったんだな。ちょっとみぞなに会ってから帰ろうとするか! すぐ帰れなさそうだしな」


「えーと。それは……」

 彼は立ち上がり。部屋から出る。

(残念ながら、あなたは一生河愛さんと会えないの……)


 みぞなの家で彼女の父親は切れながら買った商品を漁る。

 中身を見ると白いブラジャーとパンツのセットを見つけた。


「みぞな! なんだ! この下着は!」

「これは大切な友達と一緒に買ったものなの。返して!」

「大切な友達だぁ? ふざけるな! こういう派手なものを買うなんてけしからん!」

 白い下着を床に落とした後。男性は暴れ、手がつけられない。


「なんで俺に内緒で買ったんだ! いやだ、いやだ、いやだ」

 みぞなの父は発狂しながら、泣きまくる。彼女にとっても、恐怖映像だ。


「お父さん! もうやめて!」みぞなは父を強く抱きしめた。

「ごめんなさい……お父さん。私、今度からお父さんの言うこと聞くから」

 ピンク髪の少女は空知らずの雨を流しながら、子どものように泣いている成人男性をなだめる。


「本当か……みぞな」

「ええ、本当よ。だって私はお父さんのこと愛しているもの……」

「ありがとう。俺もお前のこと愛しているぞ」


 二人は互いに抱きしめ合う。不気味な愛情。だけど、みぞなたちは幸せそうだ。

「次からはお前を助けるために家で勉強しような。その方がお前にとっていいことだ」

「……そうね」


「それじゃ、今から勉強しような。それまでご飯は食べちゃダメだぞ」

「わかった。私、自分の部屋に行くわね」


 みぞなはカバンといろんな感情と共に部屋に行き、そこのドアを閉めた。

 彼女の荷物から、竹山に買ってもらった小説を取り出す。


(よかった。バレなくて。これだけは大切にしないと……)

 少女はその本を開き、じっくりと読む。

 夜空には欠けた月が窓から覗いている。

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