第12話 筆箱を買ったネコは銭湯に入る

 ここの本屋は広く。普通の店の四倍近くとある。

 いろいろなジャンルの書籍もあり。漫画の他に小説、詩集、ゲーム攻略本、雑誌等がいくつもある。


 みぞなは子どものように目をキラキラ輝かせる。ピンク色の髪をした少女にとって、見たことない光景だからだ。

「うわぁーいろんなものがあるねー」

「あぁ、そうだな。みぞなは見たことなかったのか?」

「うん。こういう大きい本屋さんに行ったことないよ。いつも図書館や古本屋さんだから」


「そうか。だったらどんどん本を見とけよ。なんなら、何か一冊買ってあげるよ」

「えー! わかった。何か探してくる」


 彼らは一旦別れて、それぞれのジャンルのコーナーを探す。竹山は探しても探しても、いいものがなかった。

「まぁ、この時代だしな。心に来るものが見つからない」

 彼はしょうがないから、適当なマイナー漫画と面白そうな小説を何冊持って行く。


(……これは)

 竹山はある文庫本を発見した。

(これをみぞなに勧めよう)聖母マリアのように優しい笑顔でそれを手に取る。


 みぞなは、難しそうな哲学本や物理学の参考書をかごの中に入れていた。

 すると、竹山と鉢合わせした。


「そういえば。みぞな。この本知っているか?」

「なにこれ」

「最近はやりの小説なんだけど。著者が高校生デビューした脚本家なんだよね。」


「へー、小説なんて国語教科書しか知らなかったよ」

「これは山口巧やまぐちたくみという人が書いている小説で、青春小説なんだけど、一度読んでみな」


「どれどれ。『筆箱を買ったネコは銭湯に入る』。なかなか面白そうだね」

「あぁこの数年後映画化するんだけど、社会的大ヒットして有名作なんだよね」


「え? この作品。一昨日発売されたばかりだけど……」

「あ、いやいや。すまない。俺の妄想だ。気にするな……」

「すごい! これで合っていたら、しんぞーは予言者だよ」


「なに口を滑らしているんですか? あなたはバカそのものですか?」

「……ほっとけ」

 彼は口を滑らすことに反省し、ピンク色の少女にこう伝える。

 

「そうだ。この本は俺が買ってあげるよ」

「え?! いいよ。これは私が……」

「いや、俺は欲しいものがなかった。だからいいのさ」

「でも……」


「決まりだな。それじゃレジに行くから外で待ってな」

 竹山はそのままレジに向かっていく。彼女は「わかった」といい。店の外まで歩いて行く。



 買い物を済ませ、彼らは書店を去り、別の店に移動する。

 古本屋。安価洋服屋。ファーストフード店。電化製品店で商品をみる。別にほしいわけじゃないが、みぞなが行きたい場所を選んで楽しくしていた。


(俺は興味ないが、こいつが楽しめればそれでいいや)


 ゲームセンターにも寄ったが、みぞなはメダルゲームにハマるも少ししたら小さな子どもに渡した。

「どうして。渡したんだ?」彼は問いかけると、みぞなは。

「だって、こんな楽しいの、他の人に分けてあげたいの」

「そうかお前らしいな」と、黒髪の男子は少し笑みを浮かべた。


 いろんな場所に行きまくった竹山たち。もう寄る場所はないと思っていた。

 突如。彼女は声を上げる。


「しんぞー! 次ここに行きたい!」

 みぞなが指さしたのは女性下着屋。男である竹山真蔵は目を丸くする。


「まてまてまて。ここはまずいって」

「まずい……。私は別にいいけど」

「お前がよくても、俺が行ったら人の目線が……」

「大丈夫! 私がいるから平気平気」

 みぞなは彼の手をひっぱり、下着屋に向かう。

「しんぞーは『みぞなの心臓』でしょう? だったら、もっと仲良くしようー」

 ピンク色の少女は満面の笑みだ。

 

(あぁ、最悪だ。誰かに見られたら)

 竹山はみぞなにグイグイと下着屋に連れて行かれる。


「いらっしゃいませ。この方はお連れさんですか?」

「はい。この子の連れです。ですが、自分は場違いなので一旦外で待ちます」

「そうですね……。でも、彼女さんの下着選ぶだけでもいいですよ」

「彼女! 俺らそういう……」

「しんぞーが選んでくれるの?! やったー。ちょっとまってね」


 彼女は嬉しそうに下着を持って行く。

「幸い。他の人は、いなさそうだから人目は大丈夫だが。やっぱり恥ずかしいわ……」


 みぞなは予算以内のブラやパンツを持って行き、黒髪男子に見せる。

 持ってきたのは、ロウソクのように白い下着とランプの明かりのように赤い下着だ。

「ねえねえ。どっちがいい?」

「なんか、恥ずかしいな……俺は白い下着の方が目立たなくていいんじゃないかな」

「なるほど。じゃ、それにする。値段もこっちの方が安いしね」


(ふう……なんとか乗り切ったぞ。後は出るだけだな)


「ところでレベッカ。お前は下着選びのときは茶化さないんだな」

「ええ、私は真剣に選ぶ人に対しては、バカにはしません。真面目に見てますよ」

「そうか。それなら良かった」


「もう買ったよ。しんぞー。さて、帰ろうー」

 

 竹山は安心するようにため息を「ふぅー」と出す。

 そのまま。彼らは店に出た。



 その頃、みぞなの父は彼女の家の中で掃除をしていた。

「おや、そろそろ洗剤が切れるな。買い物にいくか」

 彼はスーパーに出かける準備をする。

 場所は竹山たちがいる建物近くだ。

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