第10話 みぞなの家庭事情
「おめでとうございます。これで分岐点ができました」
「そうか、それはよかったな」
「はい、漫画家という夢を叶えられるチャンスです」
「ああ、俺も救われたよ。だいぶな」
「あなたのおかげで、彼女が殺人未遂で『閉鎖病棟』に一生入院することはなくなりました」
「そうか未来が変わったんだな。それってさ、まだこの時代にいなきゃだめか?」
「なにいっているんですか! まだまだ試練は残ってますよ! 彼女ともっと仲良くするまで、この時代にいなきゃいけないんですから」
「……よかった。まだいれるんだな。俺もこの時代にいたかったんだ」
「彼女に恋したんですか?」
「まださ、ただ一緒にいてもいいなと思っただけさ」
「そうなんですね。それでは引き続きお願いします」
「ありがとうな。その基準はレベッカが決めるのか」
「ええ、そうですよ。」
「……少し気になったことがあるんだけど」
「なんですか?」
「この世界線のみぞなが入院することがなかったら、俺は確実に漫画家になれるのか?」
「ええ、なれますよ。だってノートを見せることにより、漫画家ルートは生まれましたから」
「そうなんだ。ならよかった。漫画家になってみぞなに会えることは……」
「えぇ……会えますよ」
「わかった。ありがとう。レベッカ」
竹山を見続けるレベッカ。
(嘘ついてごめんなさい。あなたの夢は叶うけど。河愛さんと大人になって会える確率はないの)
竹山がいないところで、みぞなは家に帰っていた。その表情はとてもおびえていた。
「ただいま……お父さん」彼女はビクビクしている。
彼女のお父さんは玄関まで行く。
「みぞな。おかえり」とても若々しい男性が現れる。髪は薄ピンクで、身長は平均よりも高い。
「……」
「最近授業はきいているか?」
「ええ、ちゃんと聞いているよ」
「でも成績は落ちているぞ」
「前回より二点落ちているだけじゃない」
瞬間。父はみぞなの髪を強引につかみ、床に近づける。
「口答えするんじゃない! お前は俺の奴隷なんだ。勉強するだけの奴隷でいい。なにもするなただ俺の言うことだけ聞いとけばいい」
「でも私頑張ったし、この前も……」
「俺からしてみれば、まだ足りない。俺は優しいほうだ。他の家庭ならお前の体を、いろんな意味で痛めつけるからな。俺の子でよかったな」
「……はい。私はお父さんの子でよかったです」
みぞなが無理矢理感謝の言葉を伝えると、父親は彼女を抱きしめる。
「俺もお前が生まれてくれて嬉しいよ」
強く抱きしめ終わり。彼は柔らかい表情を、みぞなに見せる。
「……よし、上出来だな。今から外食に連れてってやる。今日はイタリアレストランにいくか」
「えーほんと! わーいありがとう。お父さん大好き」
「ははは、俺もみぞなが生まれてくれて嬉しいよ」
(他の家庭がどうなっているかわからないけど。私のところはとても幸せな家庭です)
みぞなはそう考える。そのまま二人で外食にいく。
しばらく学校で、竹山はみぞなに自作のネームを見せ続けた。彼の漫画は拙く。はたから見たら駄作だ。しかし、彼女は喜んでいた。初めての漫画だからだ。
「すごく面白いよ! 初めて見た!」
「まあ、ありきたりの設定だけどね」
竹山の頬が赤面する。
「そんなことないよ! おもしろい、この人物の性格もかっこいいー」
「それだったら、数学と俺の漫画どっちがおもしろい?」
「え? 数学だけど」彼女は即答だった。
「そうか。結構へこむな……」
「でも、面白いのには変わりないよ。しんぞー」
「ははは、ありがとうな。みぞな」
彼らの様子をじっくり見ている板倉。
「おい! 言いたいことあるならいえよ」
「なあ、モヤシ。あれから漫画は描いているのか?」
「なんだ? 板倉。俺を馬鹿にしてきたのか」
「……」板倉は何も言えなかった。
「いっとくが、お前には二度と俺の漫画は見せない。読ませない」
「どうしてだ?」
「お前。記憶力悪いのか? それとも、都合の悪いことは忘れるようなクズ人間なのか?」
「……いや。俺がしたことは覚えている」
「だったらわかるだろ。帰れ。見ているだけで腹立つ」
「そうか。お前がしたことも覚えているぞ」
「……? どういうこと?」
「竹山こそ記憶力が悪いんじゃないのか? じゃ、俺は帰る」
(なにからなにまでムカつくやつだな)
竹山は赤髪の青年のことを憎んでいた。
(なにからなにまで最悪だな。俺のダチを不登校にしやがって)
板倉もモヤシ男子に対して恨んでいそうだ。
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