第9話 最悪な展開

 河愛みぞなと友達になって一週間が経つ。今、帰りのHRが終わり。教室内で少女はベタベタに竹山の体を触る。

「おいやめろよな。みんなが見ている」

「ええ? いいんじゃないの? 私は別に気にしないよ」

 みぞなは、モヤシ体型な男の体に彼女の胸を押し当てる。

 

「押しつけるなって。河愛!」

「河愛でもいいけど、みぞなちゃんでもいいよ。友達ならそっちでもいいでしょう?」

 

「でもさ、俺ら恋人じゃないわけだし。やめようぜ」

「うーん。だったら。『心臓』というのはどう」

「心臓……。どういうこと?」

 

「心臓のように離れられないって事かな。それだったら恋人じゃないからいいでしょ?」

「もう、なんでもいいや」

 竹山は半分呆れていた。


「クスクス、仲のいいこと」

「いやあー、うらやましいな。こんな女に愛されてさぁ」

「似たもの同士仲良く過ごしてくれ」

「いやぁ、熱い熱い」

 生徒達の冷やかしが始まる。黒髪の男は、相当嫌がっていた。


(みんな、皮肉を言いやがって。でも試練が終わったら。この生活も終わるし、河愛も救われ、俺も夢が叶う。いいことずくめだな。)

 竹山は教科書とノートと隠すようにアイデア帳をカバンにしまう。

(これだけはなんとか見せないようにしなければ……)


 竹山の怪しい挙動をしているのを男子生徒は見逃さなかった。

「おい! みんな! こいつ何か持っているぞ!」

 男子生徒は駆け寄る。

 

「なんだ。そのボロっちいのは。ちょっと貸せよ」

 性格が悪い男子はモヤシ男からノートをむりやり奪う。

「な、俺のアイデア帳だ。おい! 返せよ」


「モヤシのノートだな。どれどれ。うひゃひゃ。なんだよこれ」

 男子は見下すように口を大きく笑った。屈辱的だ。

「こんなだっせぇ内容のノート見たことないわ」


「おい、山本。竹山のノートってどういう感じだ?」

 別の男子生徒が山本という生徒に話しかける。

「みんなも見るか? 傑作ものだぞ」


「お前ら。本当にやめろ! ふざけるな!」竹山は本気でキレていた。熱したフライパンのようだ。


「なんか豆くさいやつが喋っているけど、気にしない方がいいな」

「ぎゃははは」生徒全員は竹山に向かってケラケラ笑う。


「なにこれー。きっもー」

「意味分からないわ」


 止まらない罵倒。浴びる批判。竹山の心はもう限界に近づいている。

(ふざけるなよ……。これは俺が小学生のころから温めていたネタなんだ)


 笑いのネタにされている現実が受け止められない。だが、考えを改めた。


(待てよ。この時代は試練のためにきたんだ。だったら今の状況はどうでもいいことなのでは……)


「大丈夫? しんぞー。辛くない?」

 みぞなはノートを奪われた男子に対してなぐさめる。


「……いや平気だ。板倉にみせなければ問題ない」

「どうして、いたっちに見せたくないの?」


「あいつはなんでも批判するんだ。俺のアイデアだったら、なおさら、いじるだろう」

「……いたっちは先に帰ったから、大丈夫そうね」


 彼らは息を吐くぐらい安心し、落ち着いていた。

 しかし。「やべぇ。忘れ物した!」板倉が急いで教室に戻ってきた。

「……最悪だ」竹山は顔を真っ青になる。


「おい板倉! ビッグニュースだ。竹山が面白いノートを持っていたんだ」

「面白いノート?」

「ああ、有名作品をパクったノートだ。ノートの表紙にアイデア帳と書かれているぜ」


「あいつのアイデア帳か。つまらなそうだな。でも一応見とくか」

 山本は板倉にノートを渡す。瞬間。モヤシ学生は絶望した。

(嘘だろ……。だめだ、だめだ、だめだ。そんなこと。そうしたら俺の心が……)


 板倉はじっくりとアイデアノートを読む。

「どう板倉こいつのダサいだろ?」

 彼はノートを閉じ、少しずつ口を開く。

 

「ほんと、だっせえ内容だな」


 その一言で竹山はひどく傷ついた。だけど何にも言えなかった。


「なんだよ。主人公がめっちゃ強くて、ヒロインから何もしてないのに好かれる……ておかしいだろ。しかも、いろんな漫画からパクっているし、つまんねえ」


(……ふざけるんじゃねえぞ)モヤシ体型の男子は怒りに燃える。


「読んでて笑いそうになったよ。こんなダサい設定思いつくとはね。しかも劣化コピーだし、オリジナリティがない。俺のダチでもこんなこと書かないぜー」


「なんで……なんでなんだよ」竹山は本当にショックを受けていた。


 読み終えたノートを返そうとする板倉。


「じゃあな、漫画家志望。このアイデアがある限りは」

 ツンツンヘアーの男子はノートを床に落とすよう竹山へ渡す。


「お前が漫画家なんてものは一生無理だ。トラック運転手にもなったほうがいいんじゃないか?」

 赤髪の青年は、馬鹿にするように捨て台詞を吐く。

 

「あ、ああ、あああああ」

 彼は何も言えなかった。元の世界にもこのアイデア帳伝えてなかったのに、この世界線ではバレてしまったからだ。


 竹山の情けない姿をみた板倉は何か言いたそうに見続ける。

「板倉。なにしているんだ?」連れの山本が赤髪の青年に話しかけた。


「いやなにも。さて、そろそろ帰るか」と、彼は教室を去る。


「帰ろう。今日は面白いものが読めてラッキーだったぜー」


 生徒たちはみんな教室を去った。だが、みぞなだけは帰らず。竹山の近くに寄り添った。

「大丈夫……。ではなさそうだね」

「当たり前だろ……」

「……」

 みぞなは心配そうに竹山の様子を見る。そして、彼のノートを見続ける。


「これが、しんぞーのアイデアノート? ちょっと見せて」

「おい! やめろ!」


 黒髪男子の言葉を聞く耳持たずに彼女はアイデア帳を読む。

「ふむふむ、こういうのなんだ」


「いいよ、俺の漫画のアイデアはダサいんだから」


「そんなことないよ」

「……え?」

「私にとって見たことのない世界で面白かったよー」


「でも……この漫画の設定有名作品のパクりだし」


「有名作品……」

「昔好きだった『リトルピーチ』だったり、『ダイナマイトスパイ』だったり、最近有名な『デッサンするプードル』だったり」

「なにそれ? みたことないよ。私知らないー」


「……そうか。漫画見たことなさそうだしな」

「うん、お父さんに止められているの。漫画はバカが読むものだって。私だってそういうのが読みたいのに……」

 みぞなは、顔を下に向き、悲しげな表情を見せる。


「そうか、漫画禁止にしている家庭か。わかった 一回も読んだことないんだな」

「ええ、そうだよー」


「俺が漫画の良さを教えてやる。学校に漫画持ち込みはだめだから、自作作品のネームを毎日みせるよ」

「ネームって?」

「漫画の設計図だ。いわゆるアイデアを形にする漫画のことだな」

「……よくわからないけど、私に漫画見せてくれるんだね。ありがとう!」

「あぁ。俺も気が楽になったよ」


 みぞなと話し終え、彼が帰ろうとしたとき、レベッカが現れた。

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