第7話 いじめの主犯

「おいおいおいおいおい。どこ向かって喋っているんだよ」

 突然。男の声が聞こえる。瞬間。竹山はノートを素早く隠す。


「……その声は板倉か?」

「お、正解~。モヤシとしては上出来な答えだな」


 板倉とは、板倉都司いたくらとしという男でこの学校のカーストトップ。赤髪のツンツンヘアーに、耳たぶにピアス跡がついている。筋肉質で喧嘩も強そうだ。顔はなかなかのイケメンだが、女性にモテなさそうなオーラが漂う。勘違い系でもある。

 

 竹山は彼のことが嫌いだ。理由は板倉が最初に竹山のモヤシ体型のことをいじってきたからだ。


「モヤシと言うなよ。腹が立つ」

「おいおい、いいあだ名を考えたのは俺自身だろ? 少し感謝しろよな」

「なに? 感謝? お前を感謝祭の七面鳥にしろってことか?」


 竹山は洋画のように皮肉まじりにいうも、板倉は理解してなかった。


「なにわからんこと言っているんだよ。お前こそ、モヤシだけじゃなく肉を食えよな」

「海外には感謝祭というものがあるんだよ。もしかして自分が頭悪いことに気がついたのか?」


 彼の煽りに赤髪の生徒はイラつきながら言葉を返す。


「いいか? 本当に頭がいいやつは、相手に合わせて例えを変えるんだよ。モヤシはそういうことできたのか? 自称天才くん」


「舐めているのか? ちっ、めんどくせえな。お前と話していると」

「俺も、モヤシと喋っていると、豆くさくなるわ」

 

 板倉は憎い歯を見せながら話す。そして、こう質問をした。

「ところで、お前さ。河愛かあいのこと好きなのか? お似合いのカップルだな」

 

「はい? ラブラブのカップルにしたのは、お前の連れだろ?」

 竹山は血管をピクピクとさせながら口を動かす。

 

「そうかそうか。俺の連れがお前らのキューピットにしたんだな。なおさら、俺に感謝だな」

「その上から目線やめろ。鼻につく」


「うるせえな。俺の勝手だろ。そういうお前のしゃべり方も腹立つわ」

「その理由で俺の体型をいじってきたのか?」

「ああ、そうだけど? お前を見ているとイライラするからな。だからさ」


 『ウヒャヒャ』と大きな声を出すアホのように竹山を見下す板倉。


「相当クズだな。お前らのせいで人生台無しになって、トラック運転手に働いてんだぞ。わかっているのか?」

「人生台無し……? おいおい、まだ高校生だぞ。運転して働いてなんかなくないか?」


「あ……」黒髪の高校生はつい口を滑らしてしまう。

「違う違う。これは妄想で……」

「……きゃはははは。そんなキモい妄想なんかするなよ。じゃあな。お前はあのウザいピンク髪と告白しとけよ」

 板倉はそのまま去っていた。


(てめえなんて誰かに刺されて、くたばればいいのに……)

 竹山は赤髪のことを恨みながら物騒なことを妄想する。


 レベッカは板倉の方を目で追いながら。

(彼が板倉……さんね。この頃はこんな人なんだ)

 と、心が秋風吹く麦のように揺れる。


 女神はハッとして、我に返る。彼女は黒髪の男を心配するように声をかける。


「大丈夫でしたか? 竹山さん」

「大丈夫。ただ、久しぶりにあいつの顔見ただけで、腹立ってきただけさ。ところであいつは俺がトラックしているとき、どこで働いている?」

板倉いたくらさんですね。えーと、いい会社に勤めて、可愛い奥さんと結婚し、幸せに暮らしていますよ」


 嫌いな相手の未来が裕福で、ますます腹が立っていく竹山。

「ああー! ますます、ムカついたきた! なんでいじめられた俺がむなしい思いをし、あいつは幸せな暮らしをしているんだよ!」


「だからこそ、河愛さんを救うんですよ。彼女の人生のためにも、あなたのためにも」

「そうだよな。それしか道はないからな。しかも、試練を果たさないと帰れないし」

 

「大丈夫です。試練を終えたら、ちゃんと帰しますよ。夢を叶えた未来として」

「ありがとう。絶対成功してみせ、未来を変えてやる!」


 彼はやる気に満ちていた。その様子を女神は何か考える。


(本当に未来を変えて、幸せにしてね)

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