第6話 みぞなの悲惨な未来

 だれもいない廊下で竹山はレベッカに対して文句を言う。


「どういうことだよ! なんで、あいつと友達ごっこしなきゃいけないんだよ!」


「どうしてあなたは彼女のことを嫌っているんですか?」

「俺だけじゃないよ。みんな嫌っている。だけど当時はあいつに告白されウザかったんだ」

「それだけ?」


「ああ、だって俺の好みじゃなかったんだもの。さすがに断ったけど、勝手に好かれていい迷惑だったよ」

「断った……どういう言葉か覚えていますか?」

「忘れたよ。そんなこと」


「……実はそれが原因で彼女の人生が大きく変わったのです」

「変わった……。それはどういう……」


「あなたのせいで、河愛さんは『閉鎖病棟』に入院してしまったの」


 スピーカのような衝撃的すぎる言葉が心まで響かせる。

「?! 閉鎖病棟?! どうして!」

「彼女が言うには告白を断ったことが原因で……、その言ったことも覚えていて」

「……」


「『お前のことはウザいと思っていたし、消えてくれとも思っていた。つまり邪魔なんだよ。お前みたいな存在は必要ない』と、竹山さんが言ってたらしい。さすがにひどすぎだね」


「何で一語一句覚えているんだよ……。きもちわり」

「それが原因で彼女は統合失調症になり、その結果、殺人未遂をしました」

「?! さ、殺人未遂?! おいおいおいおい。まだその悪いニュースは知らないぜ!」


「私は未来が見えます。女神様ですから。なのでその最悪なニュースを逃れるためにあなたは選ばれたのです」

「……河愛は閉鎖病棟にいった後どうなったんだ」


「どうなるって、病院に一生暮らすんですよ。当たり前じゃないの」


「……俺の言葉であいつの人生がめちゃくちゃに。わかった。これは俺のせいだ。責任をとらないとな」

「当たり前じゃないですか。なんのためにわざわざ呼んだかと……」


「いちいち一言余計なんだよ! わかった。あいつと仲良くするから。その煽り言葉はやめてくれよな」

「はいはい。わかりましたよ」


「ところで、なんのアイテムを使って、姿を見せないようにするんだ?」


 竹山の質問に答えるように、レベッカはカバンからモノを出した。


 取り出したのはテレビのリモコンみたいなアイテム。

「はい。このリモコンを使って、あなただけにしか、見えないようにしています」


「ほうほう。どういう仕組みだ?」


「この赤いボタンを押すと、消えるようになっています」


 押した途端。彼女は幽霊のように消えた。


「おお……。すごい」

 アイテムの使い方に感心する竹山。


「そして。この青いボタンを押しながら、任意の人の名前を言えば、その人だけ見えるようになります。こうやって、『竹山真蔵たけやましんぞう』と声に出せば」


 レベッカの体が竹山の目に映る。


「へぇー。なんとなくわかってきたよ」

「それは良かったです。ちなみに赤いボタンをまた押せば、誰にでも見えるようになります。サプライズしたいとき。どうぞ~。サプライズ失敗しても、一部分の記憶を消す効果もありますので。安心してください」


「……。えげつな……。考えておくよ」竹山は生返事をし、次の授業に使う教科書を持つ。

 

 自称女神は竹山が教科書の他に何か持っているものに気づく。

「竹山さん。これは何ですか?」

「なにって、めんどくさい授業のメモするためのノートだぞ」


「……なんで二冊もあるんですか? 一冊でもいいんじゃないんですか?」

「別にいいだろ……」

「もしかして、漫画に関するものですか」

「うるさい……」


「言い忘れてましたけど、タイムスリップの主導権は私だけなので、教えないと一生この時代に帰れないですよ」

「それはずるいわ……。わかった。これは漫画ネームのアイデア帳だ。これで文句はないだろ」


「アイデア帳? 何か書きためているんですか?」

「小学生から構想を練っているノートで、これで三冊さ」

「へえー、結構書かれてまして」


「この頃は本当になりたかったからな。久しぶりに読んだらやる気が起きて」

「すごく素敵なことですよ。ところでそのノートは今もあるんですか?」

「いや、もう捨てたさ。大学卒業とともに。諦めて……」


「それは残念で……」

「でも、この時代の試練が終わったら、漫画家になれるんだろ? だったらやるしかないじゃん」


「そうですよ。まあ試練が終わらない限り。ここにはしばらくいなきゃいけないですけどね」


「まぁ、いいさ。そのためにはこのノートは誰も見せないようにしないとな。タイムリープする前の高校生活にも、見せないようにしてたから。河愛かあいにも、いじめてきたやつらにも」

「バレないといいですね……」


 彼のノートの中身は、設定やキャラデザが多く埋まっているが、とても面白いとは思えない。しかも、有名作品のいいとこどりである。

 彼はネームも作っているが、彼の漫画はめちゃくちゃで、台詞がよみづらいし、設定もわからない。


 だが熱意はすさまじく、センスは光っている。意味分からない世界観だけど、なぜか、見てしまう魅力がある。

 いわゆる芸術系の天才。彼はそのことを知らずに夢を諦めたのだ。


「でも。どうして漫画家を目指したんですか? 小説家や脚本家も素晴らしい夢ですが……」

「なんで活字に逃げなきゃいけないんだよ。俺は漫画家になって売れたいんだ。文字に逃げるって何かダサいじゃん」

「そうですか……?」

「ああ、俺はそう考えるぜ。やっぱり物語に絵がついての創作物だろ」


(うーん。ところどころ性格が難点ですね……。それ以外はまともですが)

 レベッカは『うーん』と悩んでいた。

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