第5話 河愛みぞなと竹山真蔵

「ん? どうした、みんな。毎回挨拶しているのに無視している……。ハハーン。さてはみんな最初の授業のことを考えて、疲れているんだな。」


 アゴに手を当て、『ふむふむ』とした顔で学生たちを観察。


「大丈夫! 最初は倫理・哲学だろ? 哲学楽しいじゃないか」

 ピンク髪の女の子は無視している男子生徒と肩に腕を組みながら、ハハハと笑う。


「私も哲学チョー好きでソクラテスやプラトンの話めっちゃいいよな」

「……うるせえよ。河愛かあい」つい言葉を漏らす男子生徒。


「楽しいとつい語りたくなるんだよな。無知の知ってさ、奥が深いんだよ」

「何が深いんだ? 俺らに教えてくれ」別の男子が話を振る。名は木下きのした


「いいぞ! えーと……」

「待った。モヤシにも教えてくれ。あいつ、そう言うの好きなんだよな」

 木下はニヤニヤしながら、竹山の方を向く。めんどくさいやつを対処する彼の作戦だった。

(はあ! ふざけるなよ! 誰が……)


「え?! しんぞーもそうなのか!」

「ああ、俺らよりも詳しい哲学話が聞けるぞ」

「私の知らないソクラテスの裏話が~!」


(……最悪だ。こいつとは話したくないんだが)

 竹山がみぞなの目線をそらす。するとレベッカは急に発言した。

「あ、彼女です。あなたが仲良くする相手です」


 竹山は絶句した。ミッションとして友達になる相手が学園一ウザいやつだからだ。


「はあ? いやいやいや。なんであいつと……」

「でも、試練なので険しいほうが……」

「崖から落とす勢いで険しすぎるだろ! いくら、獅子の子落としでも、険しすぎて子どもがムキムキ獅子になるだろうが!」


 竹山がホットパンツの女神と喋っていると、みぞなは不思議そうにこっちを見ていた。


「……なに言っているの。しんぞー。一人でボソボソと」

「え? もしかして。レベッカ……、いや女の人が見えないのか?」


「女の人……。もしかして守護霊?! すごい! しんぞーにしか見えないなんて才能だよ!」

 彼女はキラキラとした目で竹山の方を向いた。まるで純粋無垢の子どものようだ。



「いやモヤシは野菜を食べすぎて、脳に栄養がいかないだけ、なんじゃないのか」

 ケラケラ馬鹿にするように笑う木下。


 そのときレベッカは竹山に対してこう伝える。


「言い忘れましたが、私の姿は、神のアイテムで他の人には見えてません。お約束ですね」

「お約束って……。俺は初めてだぞ。知らんかったわ」


「漫画家志望なのに、こんなベタ展開を知らないなんて、元々漫画家に向いてなかったのね」

 レベッカはため息を吐きながら、ジト目で彼を見続ける。

「うるせえ! 知らんものは知らん!」


 大声を上げる竹山。みぞなはまたキラキラとした目で彼を見続ける。


「知らないものを知らない……、つまり無知の知を認識しているのね! 絶対ソクラテスを知っているよ」

「知っている訳ねぇだろ!」

「つまり、『自分では知っていると思っている』ということだね! それが無知の知だよ!」


「わりぃ、モヤシあとは面倒よろしくー」

 男子生徒は竹山に彼女のことを押しつけられる。


「せんきゅー。木下。よくモヤシにパスしてくれた」

「あたぼうよ! めんどいやつはこいつに任せればなんとかなるからな」


 この会話は竹山の耳にも聞こえていた。

(こいつら……余計な真似を……)彼はまた怒りに燃える。



「ねえねえ、哲学者の中で誰が好きなの? 私はソクラテスとプラトンで……」

 ピンク髪の少女は、モヤシ体型の生徒に対して、ペラペラと話す。


(わからんわからん。ソフトクリームやプランクトンなんて知らねえよ)


 彼女の話はエスカレートし、しゃべり続ける。聞き過ぎて竹山が本格的に嫌気がさしていたところに、「お前ら、席に着け」と、担任が教室に来た。先生はHRを始め、竹山は一安心する。


(レベッカのやつ。説明不足が多すぎて腹立つわ。後で覚えておけよ……)


 竹山は腹の火山が噴火しそうな勢いでイライラしている。

 その様子をレベッカは静かに見守る。

(これで竹山さんの未来が変わるといいけどね……。きっと……、喜ぶから)

 と、真剣な目で考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る