第2話 タイムスリップ

「……はあああああああ! どこから乗ってきた?!」

「ふふふ、ただの神出鬼没の女神ですよ」自称女神は口に手を当て細かく笑う。

「怪しすぎるわ!」と、竹山は力強く突っ込んだ。


「まあ無理もありませんよ。勝手に入って、こんな変なことをいうんですもの」

「自覚があるのなら。さっさと帰れや。このイカれ女神」


「私はイカれていますが、実力は本物です。過去を戻してさせあげます」

「……意味がわからない。早く帰れという言葉が聞こえないのか?」

「さっき、耳掃除したんですけどね。このめんぼうで」


 女神はカバンから綿棒入れを出す。綿棒のデザインは最悪で、鼓膜が破けるんじゃないかと、いわんばかりの形をしている。


「そんな情報しらねえーよ! なんだ! このめんぼー。めっちゃ歪だな!」

「これは私たちの天空世界で流行っているものです。これで掻くと気持ちいいんですよ」

「そんなどうでもいいことを……!」


 この綿棒は女神いわく。天界に売ってあるモノらしい。

 竹山は(天空世界って……おとぎ話かよ)と心の中で突っ込んだ。

 ホットパンツの女神はまだ喋り続ける。


「あと。この綿棒には、痴漢撃退機能もついてます。いわばカウンターで相手の攻撃を跳ね返すわけです」

「それはどういう仕組みなんだよ……」黒髪の男は質問する。

「私でもわかりません。天空世界は謎だらけですね」満面の笑みで浮かべる自称女神。竹山はもう呆れていた。


「あー、はいはい。わかった、わかった。俺のせいで話が脱線したな。もう出ていいぞ。出ないなら警察でも呼ぶからな」

「そうですよね。大変失礼しました。この装置のボタンを押したら、ここから出ますから」

 ノースリーブの彼女は、綿棒入れを出したカバンの内ポケットから装置みたいなものを取り出す。

「……はぁ、めんどくさ。どうせ押さないと帰らないんだろ? これを押したらさっさと家へ帰って安眠しろ」


「あなたって、やさしいのね。それではどうぞー」

 彼は不思議な装置のボタンを強く押す。瞬間。白く光り、竹山の体が輝く。青年の目の前にトラックの運転席ではなく、ぼんやりとした謎の空間が現れる。

 そこは、ほんのり黄色く、なにもない。ただ、自称女神と竹山しかいない空間。


「……なんだ?! この場所は!」

「ふふっ、ここは過去へ移動する際の空間です」

「そんなわけあるか!」


「そんなわけあるんですよ。私の名前はレベッカ。あなたに試練を与えるものです」

「わからん、わからん。早く戻る方法を教えろ!」

「まあまあ。落ち着いてください。今は試練内容を伝えますので」


「話をそらすな! 元の場所に戻らせろ!」

「素直に私の話を聞いた方がいいですよ。でないと、この空間に一生閉じ込められたままですよ」

「……わかった。素直に聞くよ。んで、どういうものだ」


「はい、過去に戻り、とある人と仲良くしてください」

「なんだ。結構普通じゃないか。ダチを作ればいいんだろ? 簡単だな」

「仲良くすればご褒美として、あなたの敗れた夢を叶えてあげますよ」


「……え?! マジ? 俺、漫画家になることが夢だったんだけど。それも叶うのか?!」

「はい、そうですよ。仲良くするだけで未来が変わり、あなたにも影響します」

「未来が変わるのは、いやだが。夢が叶うならやってみてもいいよな」


「そうですよ。戻る時代は決まってます。とても長い里帰りだと捉えてください。そろそろ着きますよ」

「よっしゃあ! もし大学時代なら辛いことあったけど、楽しかった日々が続くから。トラック運転よりはすごくマシだぜ!」

「楽しかった時代にいけるといいですね」

「……ん? なんでそういうんだ?」


「行けばわかります」レベッカは意味深なことを言うと黄色い空間は少しずつ消えかけ、黒い画面がしばらく映った。

「ようやく着きそうだな」彼はダンダンとまぶたを閉じる。



 しばらくして竹山は目を覚ます。ベッドの上に寝転がっていた。辺りをじっくりと見渡す。昔の住んでいた実家の部屋。懐かしのあのシミ。タイムスリップに成功したのだ。

「よっしゃ! 過去に戻っているぞ。ここは年号何年だ? 大学時代ならいいんだが」

 竹山は近くにあったカレンダーをみる。


「えーと、平成二十四年か……。 え?! 平成二十四年?! たしかこの年は」

 この時代は彼が高校生だった頃の時代。つまり地獄の三年間だったのだ。

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