追憶の心臓、とても長い里帰り

フォッカ

第1話 夢破れて

「俺は本気で漫画家になりたかった」


 午後三時頃、とある山道を通り、下っていくトラックが見える。運転手は竹山真蔵たけやましんぞう。二十六歳男性の元漫画家志望だ。

 彼の姿はヒョロヒョロのモヤシ体型で、喧嘩したらすぐ骨が物理的に折れそうなぐらい細い。髪は黒で、地味な格好をしている。目つきは悪いが、なぜか誰かにいじられる。


 車内では彼が好きだった映画『筆箱ふでばこを買ったネコは銭湯せんとうに入る』の主題歌が流れている。


「はぁ、俺の人生どうしてこうなったんだろうな」


 ため息を吐きながら、ハンドル操作し、竹山の鼓膜こまくに主題歌のバラードが響きあう。

 「これほど、漫画家になることへ後悔したのはないよ」


 彼は小学生時代から漫画家になることが夢だった。中学時代までは漫画に勤しんでいたが、人生がかわったのは高校のときだ。竹山は同級生に過剰かじょうないじられ方をされた。バカにされて、能力を認められずにいた。


 その結果。精神を病んでしまう。高校卒業後、公立大学に入学し、そこで出会った仲間たちと楽しく生活してきた。

 だが、大学で漫画家になることの現実と、同じ志望仲間の無意味な漫画批評まんがひひょうにうんざりして、漫画家になることをやめてしまう。


 今では夢破れて、大学卒業後、トラックの運転手をやっている。正直つまらない仕事だ。山を下りたら、コンビニでたばこ休憩する予定である。


「どいつもこいつも全部、高校の時の同級生のせいだ。あいつらのせいで俺の人生はめちゃくちゃになった。」


 夢破れた運転手は、怒りをあらわに少し強くアクセルをふむ。そのまま、駐車場が広いコンビニまで走った。


 山の森林が見えなくなり、駐車場についた。竹山は車を止め、店の中に入る。コーヒーと菓子パンを手に取り、レジのたばこの番号を店員に伝える。


 支払いを済ませ、車の中で買ったものを飲食する。食べ終えたのか、車内のゴミ箱に捨て、そのままシガレットに火をつけ、副流煙ふくりゅうえんを流す。


「あーあ、もし過去へ戻れるなら、大学時代にいきてえな」

 ふかしている男は、机上の空論を唱え、灰皿に細かな灰を落とす。


「過去が変われば未来が変わる……、とは聞いたことあるけど、本当にそうなるか? 普通に考えれば別の平行世界の未来になるはずだから、変わらない。と前に読んでいた小説には書かれてたな。今の俺にはどっちでもいいがな」


 また、たばこのスポンジを口に入れた。座席をリクライニングし、体をリラックス状態にする。

「まあ、簡単に過去へ戻れるわけないよな! 戻れたら楽ないぜ」

「いえ、条件次第じょうけんしだいで戻れますよ」


 助手席に髪がオレンジ色で白いノースリーブをきて、デニムのホットパンツを履いた女性がいつの間にか現れた。

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