廿月と悠輝と親子

 廿月はつきは悪人をつれ、悠輝のいる路地裏まで戻る。彼は少し疲れているようだ。

「お疲れはっきー。なかなかかっこよかったぞ」

「一ノ瀬さん、俺の姿見てなかったでしょう……」

 

「まあまあ、それはいいじゃないかー。ところで買ってきた袋知らないか? 探したけどなくてさ」

「え? なくしたんですか? てっきり一ノ瀬さんが持っているのかと」


「まあ、なくしたと言えばなくしたけど。たしかはっきーが持っていたはずなんだよね」

「え? 俺? ちょっと待ってくださいね。あったかな……」


 彼は買い物袋を探す。すると、荷物がぐちゃぐちゃになったものを見つけ青ざめる。


「うぎゃー!!! 霧山さんのものが!」

 ウィンピィは目ん玉を飛び出しながら、毛を逆立てる。動きもコメディチックになっていた。


「う、嘘だろ……。俺が持っていたのか。悪いことをしてしまった」廿月はつきは申し訳なさそうに言葉を吐く。

「いや、はっきーは悪くない。オレちゃんが、はっきーに持たせたのが悪い。ごめん」


「ちがうもん! わるいひとをこらしめるために、あばれちゃったぼくがわるいもん」

 エレフンはわーん、と喚きながら、二人と一匹に謝る。


「わかった! すべてボクが責任をとろう! みんなが謝ってもしょうがない!」

「ウィンピィ……。気持ちはわかる。だけど、ここは全員で霧山さんに謝罪しよう。お駄賃はもらえないが、それはしかたがない」


 彼らは責任の譲り合いはせずにみんなで謝ることにする。

 悠輝ゆうきたちは賛成した。


「その前に財布を返さないとな、親友」思い出したかのように話す彼女。


 銀髪の青年たちは能力を解除し、路地裏から出ようとする。

 目の前には成人女性が立っていた。


「はぁはぁ、ここにいましたか。ありがとうございます」

 その人は財布を盗まれた親子のお母さんだ。

 彼女の顔は若々しく三十代近くに見える。


「いえいえ、俺たちは悪い人を許せなかっただけですので」

 廿月はそう話すと、悠輝ゆうきは母親を怪しんでいた。


「まてまて、どうしてあなたはここに財布……。いや、犯人の場所がわかったんだ?」


「それは……、財布に発信器があるからです」

「発信器? そういえば、テレビでそれのグッズ紹介されていたな。疑って悪かったぜ」

「いえいえ、これって意外と効果あるんですよ」

「はあ、すごいな。確か安価だったよな。いい買い物をしたね。奥さん」悠輝ゆうきはしゃべりながら、財布を返す。


「そうそう。だから、ここの場所がわかったのよ」

「なるへー、ありがとうな。えーと、名前は」彼女のなれなれしい態度に注意するよう向かう廿月はつき

「一ノ瀬さん。すこしなれなれしいですよ。相手は年上ですから、敬った方がいいです」


 彼の言葉に若いお母さんは「大丈夫、気にしないでいいのよ」とフォローする。


「私の名前は黒墨華南くろすみかなん。それで隠れている子が、私の娘の絵凛えりよ。」


 突然、華南かなんの後ろから高校生ぐらいの女の子が現れる。

「財布を取り返してくれてありがとう……」彼女は恥ずかしそうに言う。


 少女の見た目は、オレンジ髪のロングヘアーで、服装はイマドキのファッションを着ている。

 スタイルもよく、悠輝のモデル体型に数ミリだけ肉がついている感じ。

 顔はお母さん似だ。


 絵凛えりの元に銀髪の青年が近づいてきた。

「よかったね。財布戻って」

 彼はやさしそうな声で話しかける。しかし、彼女の反応は違った。


「うるさい! 私に話しかけないで! 元々お母さんのものでしょう?! だったら私関係ないじゃん!」

「……そうだね。ごめん」廿月はつきは申し訳なさそうに言葉を話す。


「おいおいおいおい。親友にそんなこと言うなよ。お前が心配だから話しかけてきたんじゃないか」


「なに? 私が間違っているといいたいの? 財布はお母さんのものだから、しゃべるのならお母さんの方に言って」


 少女はイライラしながら話していたことに母親は「絵凛えりちゃん!」と注意する。


「……ごめんなさい。盗んだ人のせいでケーキ食べられないことにイライラしてて」

 絵凛えり廿月はつきに対して謝った。

 

「なんだそんなこと。気にしなくていいよ」

「でも……」

「理不尽に怒られるのはなれているから」

 

 廿月はつきは笑いながら言う。それを聞いた悠輝ゆうきはこう突っ込む。

 

「それって霧山さんのことか?」

「え?! それは違うよ」

「でもオレちゃんたち。理不尽にやられているぜ。トイレが汚いから怒られたり、食器洗ってないから怒られたりで」


 悠輝ゆうきの言葉に対して、絵凛えりは、

「いや当たり前でしょ?! 誰だって怒るよ」と、つっこむ。


「何でも屋なのにトイレが汚いのは何事だ! と、いつも叱られるぜ」

 アイドル志望の彼女はあきれた態度をとっている。

 

「お客さんが使ってもいいようにきれいにするんだよ。霧山さんがいっているじゃないか。お客様を歓迎するならまずはトイレから……だろ?」

 廿月はつきはそう金髪の女に伝える。


「……まって?! あなたたち。何でも屋なの?!」

 絵凛えりは目をまん丸にして彼らを見つめる。

 

「え? そうだけど。俺ら、何でも屋で働いてて」

「それがどうしたんだい? えりっち。オレちゃんたちに何か用でも」


「なれなれしくあだ名で呼ぶな! まぁ、要するにお母さんがそこに用があったんだよ」

 オレンジ髪の少女の発言に驚く廿月はつき

「なんだって! 黒墨くろすみさん。よかったら今から行きますか? ちょうどそこに帰りますので」


 彼の言葉を聞いた親子。少し悩む。

「ですって、どうする? お母さん」

「そうね……。財布の件もありますし、迷惑でなければ」

「全然迷惑じゃないですよ! むしろ大歓迎です! ちょっとまってください。名刺を渡しますので」


 廿月はつきは名刺入れを取り出す。おなじく、話を聞いた悠輝ゆうきも、名刺を探す。


 買い物の中身はひどいありさまだが、大事なお客さんを捕まえたので何でも屋の社長は大満足するだろう。


 廿月はつきたちが大きな事件に巻き込まれることは、彼らでも知らなかった――。

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