現状確認

 しばらくすると、ジャックが保険医の先生を連れてやってきた。

 診察の結果、頭を強く打ったことによる記憶喪失と診断され、玄斗は自分が転生した肉体の元の持ち主について聞かされる。

 ジャックの説明から、玄斗は情報を大きく3つに分けて整理していった。


 1つ。この肉体の名前はクロード。親友のジャックと2人で田舎を出て、王都の国立魔法学校に編入してきたという事。奇しくも希望進路は魔法技術師、つまり元の世界で言うところのエンジニア職だったらしく、名前の響きが似ている事もあり、玄斗は親近感を覚えた。


 2つ。ここは魔法の世界で、このイーリス学園は魔導師を育成する魔法学校だということ。いくつかある学部の内、自分が属しているのは、いわゆる工業系の魔法工学科。魔法を用いた道具を作るのみならず、既存の魔導具の調整なども行うらしい。


 そして3つ。ジャックは自称クロードの一番頼れる親友で相棒だということ。

 

「OK、最後はともかく大体わかった」

「本当か?」

「ここまで熱心に語り聞かせてくれる辺り、君が僕の友人だって話に嘘はないと思う」


 所々に含まれていた専門用語についてはおいおい聞こう。そう考えながらクロードは、いくつか確認しなければならない情報を絞り込む。


「ジャック……くん?」

「ジャックでいい」

「じゃあ、ジャック。僕ってどんなヤツだった?」

「どんな、ときたか。そうだな……一言でいうなら、魔導具バカだったよ。暇さえあれば四六時中、魔導具をいじくり回してた。ボロくなったのを修理したり、集めた部品で自分から作ってみたり。進路も趣味が高じてその道を決めたくらいだな」

「なるほど……」


 どうやらクロードは自分と近い青年だったらしい。ジャックの話を聞いて玄斗はそう納得した。


「僕は記憶を失う直前、何をしていたんだ?」

「頭を打って気を失っていたらしい。おそらくボラール・クランの連中だろうが……あいつらの事も覚えてないのか?」

「いや全然……」

「クソっ、アイツらタダじゃおかねぇ」


 ジャックの声のトーンが下がる。そのボラール・クランとやらに対して本気で怒っているらしい。集団クランと言うからには複数人いるようだが、部活動か何かだろうか?


「とりあえず、寮まで案内するわ。自分の部屋に行けば、何か思い出せるかもだし」

「ありがとう。もしかして、僕たち同じ部屋?」

「まぁな。あ、散らかってるのは気にしないでくれよ。近いうちに掃除するからさ」


 おどけた態度で肩を組みながら笑うジャック。その姿に転生する前の自分の友人を重ねながら、玄斗は医務室を後にするのだった。

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