学園最弱の魔術師に転生した特撮オタクは、追放された貴族嫡男と手を組み最強を目指します。

金城章三郎

転生・ウェイクアップ!

 加樫木玄斗かかしぎ くろとは、どこにでもいる普通の高校生である。否、彼を普通と呼ぶにはあまりにもオタクすぎるかもしれない。

 幼い頃より、彼はヒーローが大好きだった。古今東西、あらゆる特撮ヒーローを制覇せんと両親にせがみ、貯めた小遣いを片手に近所のレンタル店を行脚したほどである。


 鉄の騎馬を友とする仮面の騎士や、彩り豊かな戦略部隊。彼方より来たる光の巨人に、果ては国を跨いで侵略者に報復する超人たちまで。ヒーローの名を関する存在全てが、彼の興味の対象だった。


 また、それだけではない。彼にとっては人々を癒す可憐な魔法少女たちもまた、尊敬すべき対象である。敵を倒すだけではない。癒して許し、包み込む優しさに心打たれた瞬間を、彼は何度も噛み締めている。


 そういった少年は大抵、その憧れた存在になる事を志すのがお約束だろう。だが、彼はそこが少し違っていた。

 彼が目指したのはそういった、誰かのために頑張る人々を……ヒーローたちを支える側の存在だったのだ。


 手先が器用で、趣味は機械いじり。将来はエンジニアを志しながら、ご近所さんから持ち込まれた家電や学校の備品を修理する日々を送る。周りの人たちからの感謝と笑顔が、彼には何よりの喜びであった。


 そんな彼の人生は、ある日突然終わりを迎える。

 友人と2人で、高校の倉庫を整理していた時のことだった。古くなっていた棚の上から、運悪く備品入りのダンボールが落下。

 玄斗は友人を助けようと、咄嗟に彼を突き飛ばした。


 直後、脳天に走る割れるような衝撃。暗転する視界と遠のく意識。そして彼の名前を叫ぶ友人の声。痛みを感じる余裕すらなく、こうして加樫木玄斗は16歳という若さで命を終えた。


 ……はずだった。


「……お、やっと起きたな。大丈夫か?」

「……誰?」


 目を覚ますと、見慣れない天井が広がっていた。

 ついでに、見慣れぬ制服に身を包んだオレンジのメッシュの男子生徒が、心配そうにこちらを見つめていた。

 

 自分はいったいどうなった?ここは何処だ?そもそも、目の前にいる彼は誰だ?玄斗は困惑した。


「誰って……俺だよ俺。お前の大親友、ジャックだよ!」

「ジャック……?帰ってきた四男坊の?」

「俺は一人っ子だし、そもそもどこにも行ってないが?」

「え~っと……ごめん。覚えてないんだ」

「……マジで?」

「マジだ」

「……オイオイオイ嘘だろ!?先生、先生ぇぇぇぇ!!クロが、クロードが大変な事に!!」


 大袈裟なくらい大声で叫ぶジャック。玄斗は思わず頭を押さえた。触ると包帯が巻かれているらしく、意識を失う直前、頭を強く打った事を思い出した。

 慌ただしく部屋を出ていく彼を見送ると、今の自分が置かれている場所を見回す。


 綺麗な白いシーツが敷かれたベッド。隣にも同じようなベッドがあり、ベッド同士を仕切るように提げられたカーテンがある事から医務室らしいという事は分かる。

 しかし、周囲は全く見覚えのない西洋風の内装だ。明らかに彼の通う高校のものではなかったし、先程ジャックと名乗った生徒が着ていた制服にも見覚えがない。


 困惑したまま、彼は何の気なしに窓に目をやった。


「だ、誰だお前ぇぇぇぇ!?え、これ俺かぁぁぁ!?」


 そこに映っていたのは、全く知らない顔だった。

 16年間染めたこともなかった黒髪は淡い藁色に。カラコンなど試したことも無い黒い瞳も、薄い青に変わっていた。思わず顔を両手でペタペタと触り、頬をつねる。

 つねった頬が痛い。痛みでこれが現実なのだと実感した玄斗は、一度深呼吸をして状況を整理する事にした。


 劇的な外見の変化と見知らぬ環境、そして見知らぬ知り合いの存在。これらの情報から、玄斗が導き出した答えはただ一つ。


「もしかして……異世界転生かこれーーー!?」


 玄斗は絶叫した。

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