13話 4月17日 追及する②



 真実を知るため、6時間目が終わってすぐ秋奈を連れてきた。


「…な、何をするつもりなのよ」


 屋上に着いてから握っていた手首を離すと、秋奈は人を変態を見るように身を庇った。


 いたずらを受ける気分ではない。


「香菜がいじめられたこと、なぜ俺に言わなかった」


 生半可に聞けば秋奈がしらを切ると思って確信を持って言った。


「…た、たちばなくんがそれをどうやって!?」


「そんなのどうでもいいだろ、なんで言わなかった!」


「…それは昔のことで……大したことでも…」


「大したことないいじめに香菜が椅子で暴行を犯すか!」


「!?」


 あ、くそ! 驚く反応を見ると椅子で殴ったのも事実のようだ。


「はぁ、いったい俺がいない間に何があった」


「…だ、だれかに…聞いたの……」


「話を逸らすな! 何がいた…」


「いいから答えるの!!」


「!?」


 強圧的な声にぎょっとしたけど震えているのはむしろ秋奈だった。


「……噂が好きな友達がいる、あいつから聞いた」


「…そう」


 そう言って秋奈は安堵のため息をついた……


「香菜はなぜいじめられた」


「…言えないの」


「そう? じゃあ裕也に聞く」


「!?」


 屋上を後にして降りようとするのを細い手が止めさせた。


「…ゆうやくんに聞いたら……ウチ許さない」


 握る力は弱かったけど必死さが伝わったので俺の足を止めるには十分だった。でも捕まえることを予想していた俺は体を回して振り切った。


「お前今ため息ついたの、裕也が言ったことじゃないのを知って安心したんだろう」


「!?」


 根拠があって言ったわけではないが秋奈の驚いた顔を見ると明らかだ。


「裕也……あいつ本当に昔のままか?」


「…どういう意味なの」


「あの香菜が我慢できず暴行を犯したくらいなら、いじめられたことは長い間受けたってことだ。そんなのにもそのような事件が起こるまで裕也が何もしなかったっておかしいだろう」


 秋奈は裕也が俺にした壁を置く態度に『…ゆうやくんが本気でそんなことを言ったと思う?』と、以前のように言った。それなら裕也は人をよく助ける姿を持っているという話だが、それなら香菜がいじめられた状況とはマッチしない、合わないんだ。


「…ゆうやくんは知らなかったの、クラスが違ったから」


「はあ? 同じ学校だったのに知らないって…話がなると思うのか!」


「!? …でもでもあの時は仲が遠くなった後だったから知らなかったかも…」


「いい加減に庇え。裕也は香菜がいじめられているのを知っていた、それでも助けてくれなかった、違うか」


 秋奈はこれ以上言い訳をせず悔しそうに唇をかんだ。


 そして涙を流し始めた。


「…しく、本当に知らなかったの…違うクラスだったから……まさか、暴行を犯すとは思わなかったのよ」


「……でもいじめられてたってことは知っていた…だろう」


 俺の言葉にさらに涙を流しながら今度はうなずいた。


 くそ…


「香菜は……いつからいじめられてた」


「…1…」


 1年前か……


 朝倉から聞いた話では、事件が起きたのは3年の初め頃。それならいじめられた期間は思ったより短いようだ。こうしたら後で気づいた可能性も…


「…1年の時から」


「はあ!? 1年!!!」


「ひいっ!」


 それじゃせめて1年以上……その間あの奴は…


「このくっそが――!」


 ドカン!


 俺はすぐに屋上のドアを開け、階段を降りた。


「…ど、どこ行くの」


「決まってるんだろ――! 裕也を…あいつをぶん殴るに行く」


「なっ! そうしない…きゃあああああああ―――!」


「!? ば、バカ」


 足を踏み外して階段から落ちるのを受け止めた。


「ばかやろう危険…!」


「やめて! ゆうやくんは悪くないの、そんなことしてはダメなの!」


 俺の懐に抱きしめた秋奈はぎゅっと掴んで、自分の体より裕也の心配をした。


「笑わせんな、何が悪くないんだ。香菜がいじめられるのを傍観したんだ、それがあいつの過ちで……罪だ!」


「しょうがなかったのよ! …それにかなちゃんが事件を起こしたのはいじめられたからではないの……ウチのせいで……」


「どういうことだ?」


 秋奈は俺の制服を濡らして話を続けた。


「3年の時ウチ、かなちゃんと同じクラスになったの。その時かなちゃんがいじめられるのを見てばかりできなくてつきまとったけど、かなちゃんをいじめる悪い子たちが今度はウチを苦しめ始めたの…それで我慢できなくてつい……」


 それで椅子で叩いたってことか……見たところ嘘をついているようではないうえ、香菜の性格を考えると納得できる話だ。


「とにかくあいつが傍観したという事実は変わらない!」


「さっきからどうしてゆうやくんを悪い人に仕立てるの、悪いのはいじめた子たちなのに」


「だれも悪くないって言ってない! だがそんなクズ野郎どもがいじめても、裕也は香菜を守ってあげるべきだった」


「…資格もないくせに」


 秋奈は俺の胸から抜け出して、涙の混じった目で見下ろした。


「な、何がだ」


「…みなとくんは何も知らないくせにどうしてそんなこと言うの、何の資格があって。ゆうやくんがそんなかなちゃんを見るたびにどれだけつらかったか分かるの!」


「お前一体何を言ってるん…」


「かなちゃんが今まで学校に通えたのはゆうやくんのおかげなのよ! もしこっそり助けてくれなかったら今頃……」


 そして秋奈はうつむいて嘆いた。


「いや、じゃ一緒にいてくれればよかったじゃん。裕也が守って友達でいてくれたら、誰が香菜を触れる」


 そう、もし裕也がそばにいてくれたら、誰も香菜に触れることはできない。そして自分がそのような存在だということは裕也本人もよく知っているはずだ。


「それができなかったからゆうやくんは今も罪悪感に苦しんでいるの。ゆうやくんに謝れ」


「はあ? ……いや謝らん、俺なら香菜のそばにいてくれた。俺ができることをあいつができないのはあり得ん…」


「うぬぼれるな」


「!?」


「いなかったじゃん! あってばしてくれたなどは何の役にも立たないの」


「それは……」


 秋奈の冷静な発言に俺は何も言えなかった。そして秋奈はたくさんの話をした。


 俺が転校してからも予想したように3人は付き合い、それは中学校に入学してからも続いたようだ。


 クラスが違っても放課後毎日のように付き合っていたが、2学期が始まってから香菜が距離を置き始めたそうで、いじめられたのはその頃からだったらしい。


 とうぜん香菜はそれを隠していたので2人は知るすべがなく、この過程で裕也と香菜の間に不和が生じ、詳しい内容は言えないがくさびを刺したのは自分だと後悔しそうに言った。


 2年になって香奈と裕也は同じクラスになり、裕也の存在のおかげで直接的ないじめはなくなったけど香菜は孤立した。それを見てばかりいたことに裕也は罪悪感を持ったという。


 3年になったすぐいじめが再び生じた。


 同じクラスになった秋奈は最初はどうしていいか分からず見てばかりいたが、勇気を出して香菜と付き回り始めると、香菜はそんな秋奈を心配して追い出したがそれでもあきらめずにくっついたのでいじめされたようだ


 それでその椅子事件が起き、香菜に起きたすべての真実を聞いたという。


 それが何なのかは流石に言ってくれなかったけどとても残酷なことだったとを、俺の懐から再び嗚咽しながら話す秋奈からたくさん伝われた。


「……あのいじめたやつらはこの学校にいるのか」


「…しく……いない…悪口言った子たちはいるかもしれないけど…ウチは知らない」


「ちっ」


 いやむしろよかったのか、もし同じ学校にいることを知っていたら殺しに行ったはずだ、高校生になってまで事故を起こしていたら父さんに会う顔もない。


「秋奈、まだ裕也を友達だと思うのか」


「…うん……みなとくんは…ち、違うの…?」


 秋奈は否定してくれることを願うように見上げている。


「……思う、だからここに戻ってきたんだ」


「…何のことなの」


 秋奈の問いに答えず提案をした。


「秋奈! 俺と同盟を結ぼう」


「…どうめい?」


「そう、昔のように4人で仲良しになる同盟」


「…ほんと……!? 昔のように仲良しになれるの」


「約束する」


 俺は小指を差し出した。


 驚いている秋奈は俺の顔と差し出した手を交互に見ながらしばらく迷い、やがて決心したのか自分の小指を結んで親指でハンコを押した。


 この瞬間、俺はこの学校でやりたいことが1つできた。そのためには秋奈の助けが必要だ。


 もっと話したかったけど秋奈が部活動をしに行かなければならないと言ったので放課後に続けることにして、俺は……

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