12話 4月17日 追及する①
「今日も1年3組の朝を開いてくださってありがとうございます」
「……」
「しかし、ワンパターンで無視されるのに慣れているのか周りの反応がちょいっと生ぬるいだと思います、ですから他のパターンで行ってみてばいかがでしょう?」
学校で過ごす週の最後の日。
2日間会えないと思って少しでも仲を進展させたい俺だが、相変わらず入口に足の指さえ届かない状況が続いている。
「……いい方法でもあるのか?」
朝倉に聞くのはしゃくだが、進展ないのがもどかしくってしょうがない。
「今すぐ告白するのです。こうやって…」
朝倉は俺の前で跪いて告白するポーズをとった。
「別れたあと抑えて止まってしまったこの心はあなたと再会し、またも動き、もはや我慢できなくなりました。ぜひこの切ない気持ちを受け取って私と付き合ってください! てな?」
朝倉のじゃれに周りから面白がる反応が漏れた……殴るか?
「好きならこれくらいはやらないと」
香菜も聞いたはずだけどただ本を読むだけで、隣にいるあきなは情けない顔で見つめている。
ちっ、否定するのも面倒だ。
「諦められない?」
「違うってば!」
叫んで否定すると朝倉は頭を掻いた。何その顔は? 情けないと思うのか!
「立花、実はね」
「何だ!」
「えっと…話すべきかどうか悩んだけどさ」
朝倉は俺に近づいてささやいた。ん? 何の話かな、気になるな。
「じゃあ話すな。聞きたくないから」
ってだまされるか! 大事な話のふりをするな。
「まじめな話だよ」
「はいはい、まじめな話ですね~」
ったく俺をバカだと思っているのか。どうせ油断させてからかうつもりなんだろう。
そんな下心を朝礼を知らせるチャイムが止めて朝倉は迷いながら『後で話すよ』と言って席に座った……ん?
「マジまじめな話なの? 一体なんだそれが」
すごく気になって聞いてしまった。
「ん? ああ、ここでする話ではなくてえっと…後で言ってあげるよ」
「後? 後っていつだ、いや待ってなれん! 早く…うっ!」
朝倉が俺の口をふさいで周囲の視線を気にした。
「しーっ! 静かにしろ。昼休みに言うからその時までおとなしく待つ」
俺は犬かよ……つかじらすともっと気になるじゃん~。
◇◆◇◆◇◆
「今日は誘うのやめよう、今からする話は相原ちゃんが聞くには…ちょっとあれで」
昨日と同じメンバーで食堂にきた.
「ああ、わかった」
妙に気にしながら言う朝倉にノールックで答えた。ちなみに朝倉が言ったまじめな話か何かはもう興味を失って俺の視線は今、香菜に真っすぐだ。
香菜と目が合った……椅子を取り出した……首を回して遠く消え去った。
「……だから何だ話って!」
「なぜ怒る!? 躁うつ病なのか!?」
「でもさ~、昨日は目の前で認識して無視したのに今日は遠くから俺を見つけたじゃない? これってシグナルだと思っていいんだよね? 俺のことを意識し始めたってことだよね? ね?」
うん、確かだ。聞くまでもなく結論を下そう。タンタン。
「どれだけ無視されたら思考回路が…哀れな奴」
「……」
お前は勉強しながらご飯でも食べろ! と、言ったら怒る目に当たるから、黙って長く切られているとんかつをソースにつけ一口かじって食べた。
「もぐもぐ~それで? 言いたいことて何だ」
「あ、実はね……」
珍しいな朝倉が言葉をためらうなんて…本当まじめな話らしい。
「中学生の時の相原ちゃんの話を聞いたんだ」
「!?」
とんかつを吐くところだった。
「ごっくん! ごほごほ……お前まさか…掘り下げるなと言ったよなあ!!」
「違う! 僕が聞いたのではない。昨日一緒に遊んでた女の子からぐうぜん聞いたので…」
「うそつけ! 昨日出た話を、昨日ぐうぜん聞いただというのか? 話がなると思うのか!」
俺が怒ると朝倉は慌てて『その子が相原ちゃんと同中で、たまたま、話が出てきたの』と否定した……口を開けば開けるほど怪しい。
「それで?」
とんかつ定食についてきたみそ汁を、器ごと持って飲んでから聞いた。
「それでって何が?」
「中学生の時の香菜はどうだった」
「ん? 怒っておきながら聞くの?」
「お前が知っている香菜の過去を俺が知らないことがあってたまるか!」
当事者がいない所で過去の話を聞くのはちょっとあれだが仕方ない。それに俺がいなかった時の香菜…そっちょく気になって、いつのまにか連絡が切れどう過ごしていたのか全然さっぱりだから。
「じゃあ、怒らないで聞いて」
「ささっと言え」
朝倉は頭を俺の方に突き出してそっとささやいた。
「相原ちゃん……椅子で人を叩いたって」
「……ん!?」
……えっーと、どういうこと?
俺が理解していないと思った朝倉が、もっと詳しく説明してくれた……信じられない内容を。
バン!
その内容にかっとなって食卓を打って立った。
「はあー!? いじめられたってそれ本当か!!!」
秋奈ならまだしもあの香菜がいじめられた? 信じられない…
「あぁ、そうだと思う…他の女の子もうなずいて言ったから」
「……」
「立花?」
「……いやお前が聞き間違えた」
確信を込めて言った。
もちろん今の香菜の姿を見ればいじめられてもおかしく思うことはない。声をかけても冷たく接して、くすんで見えて、そんなくせ余計に美人だから、いじめの標的になる可能性はある。
でも裕也がいる! あいつが香菜がいじめられてるのを見ばかりしたはずが…!
『かなちゃんとゆうやくんの仲が悪くなったの』
秋奈の言った言葉が脳裏によぎった。
「いやいやそんな問題ではないんだろ、喧嘩して何だっと言うんだ。そんな行為を見逃す人間じゃないじゃないか、それに昨日は…」
こっそりボールを投げてくれた裕也と、どこか悲しそうに裕也を眺めた香菜。その2人の姿を見れば秋奈の言えない何かがあって仲が遠くなったようだが、互いが互いに申し訳ない気持ちを持っていると感じられた。
「もっと詳しく調べてみようか?」
「ん?」
朝倉がしばらく考え込んでいる俺を心配そうに見ていた。
「いや、い…朝倉、このことだけど…」
「吾輩のために椅子を取り出す忠誠心に、このピーマンを与えてくれるのだ」
世界で一番悩みと縁のない人が、俺のご飯の上にピーマンをのせながら登場した。
星野は自然に座ってご飯を食べ始め、その姿に本をめくろうとした櫛田の手を止めた。
「なぜ、ここに座る?」
「もぐもぐ~君が起きて吾輩を見たじゃないのか」
櫛田が俺を殺す勢いでにらんだ……!? ちがっ! そんなつもりじゃなかった。 ただ驚いて起きただけで、しかも星野なんか見てもいなかったよ。
そんな誤解の気持ちを込めて必死に首を振って否定した。
「ん? 君、本見ながら食べると背が伸びないのだ」
空気を読まず一言投げると櫛田はもっと荒く星野を睨みつけたが、気づかないまま黙々とご飯を食べるだけだった。
騒々しい雰囲気に悩むのも一旦止めることにして飯を食べることにした。
その後『どうしよう、もう少し詳しく調べてみようか』という朝倉の心配を引き止めた。
これだけは直接聞いてみなければならない。
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