11話 4月16日 観察⑤
「もう聞きたいことはないよね」
「ん?」
「じゃあ、そのボールを投げろとにかく僕よりは上手だろ」
俺が持っているボールを指した。
「ああ…し、な、い! やるなら櫛田とやれ、あいつも練習しないといけないんじゃないの?」
「クッシーはしないよ、体育の成績なんてもう諦めたから」
「で? 諦めた奴はどこにいる」
「あっち。先生が行ったすぐ避難した」
朝倉が指した隅で本を読んでいる。恐らく参考書だろう。
「本当嫌いなようだな」
勉強のための参考書は体育の時間さえも例外にはならないようだ。それくらいなら勉強と付き合ったら?
「クッシー、体力ないから体を使うものはほとんど嫌がるんだ」
「それも見れば分かる。ところでお前らどうやって友達になった? 性格がまるっ違いだろう」
普段から気になるのを聞いた。
「えっと、中3から同じ寮を使ってきた因縁とだけ言っておくよ」
「から? へえ~同じ寮使ってるんだ」
「まな、おかげで今はまさにベストフレンドよ」
どうやら2人だけの思い出があるらしいが…
「これは櫛田の話も聞いてみないと?」
この前、友達ということを否定されたから。
「クッシー、おもては無関心なふりしても中身はそうではない。名前と違ってな」
「名前? 確か
「そう、冷たい男だ。そんなくせ暖かいところがあるやつなんだ」
朝倉は自信満々に言った。おぉ~なんかわかるようた。
「俺が転校したら、寂しくてついてくるかもしれない」
朝倉は自信満々に言った。あぁ~まったくわからない。
◇◆◇◆◇◆
「そこの君! 吾輩がバスケを教えてくれるのだ!」
ん? 何だあれ。
朝倉と雑談で盛り上がっていると誰かが参考書を読んでいる、実は暖かい男? な櫛田に声をかけた。
名前は知らないが同じクラスの男で、うちのクラスのバスケ部3人の残り1人だ。
「……」
櫛田は自分に言ったのではないと思ったのか、あるいはわざと無視したのかは分からないけど、その真意を知るはずがない男は信じられないことを口に出した。
「そこ、背がひくい君なのだ! 聞こえないのか?」
「……はあ!?」
櫛田から冷たい冷気が流れた。いや、冗談ではなくマジ流れたってば! 確かに見えたってば……雪男だからかな?
そんなくだらないことを考えると、櫛田は覇気を噴き出しながら殺伐と睨んでいた……うわ~なにあの目は、殺すつもりか?
「心配するなのだ、君みたいな才能ない人でもよく教えてくれるほど吾輩はすぐれているなのだ。だからちっちゃいってひるむなのだ」
いや、お前も小っちゃいだろ! 何の無礼なやつだ。しかも変な話し方まで……それより目の前にいる殺気が見えないのか? 早く逃げろあほんだれ。
「お前だれだ、うっとうしいから消えされクズ野郎」
「なに!? 君まさか吾輩を、この学校バスケット部エースであるこの
お、あいつバスケ上手なのか全然そうは見えないけど……てかエースは裕也では、それより偉そうな名前だなー。
「だから何だ、興味ないから消えろまぬけめ」
櫛田は天下を支配するそうな名前には興味ないようだ。
「あれ? 君が聞いたんでは……? 記憶力が金魚なのか?」
「……ろくでなしめぶっ殺す」
櫛田の忍耐の糸が切れたのか読んでいた本を閉じた。
「これ、やばくないか」
「とりあえず止めよう」
俺と朝倉は心は一致し、行動には迷いがなかった。
「クッシー、あちらで僕とバスケしよう」
ん? ちょ! お前が櫛田を連れて行けば俺がこいつを……?
◇◆◇◆◇◆
「君! この吾輩とボールを取り交わすことができるのだ。光栄だと思うのだ!」
「はいはい、光栄ですね……」
「家門の誇りになるのだ」
小さいくせ態度はでかい奴だ。自尊感まじすげぇ~
「さあ、行くのだ!」
星野は両手でボールを胸にひきつけ手を伸ばして投げた。
「!?」
真ん中に飛んでくると思った俺は、右のほうに片腕の距離くらい飛んでるボールをぎりぎり掴んだ。
星野は、おっとっとして何ごともなかったのように『捕まえられるのか試してみたけど、なかなかだ褒めてやるのだ』と意気あがって言った。
「じゃあ、投げる……」
「いつでも来いのだ」
姿勢を取って星野がしたように、同じスピードで左に投げた。
星野は『とんでこともないのだ!』と叫んで右手を伸ばした…けど掴めずに当たって跳ね返った。櫛田の方に…えっ! やばい!
ボールは櫛田の頭にせいかくに命中して、倒れた櫛田は飛んできた方向にいる星野を殺す勢いでにらんだ。
その視線に星野は櫛田に近づいて…
「すまないのだ。あいつのパスが未熟なせいなのだ。吾輩が代わりに謝ってくれるのだ。感謝するのだ」
堂々と俺に責任を転嫁した……はぁ? 話し方変な奴のくせ何を言ってるんだ!
櫛田は殺気を俺に移したので違うと手を振って、横にいた朝倉さえ『何やってるんだ』と言うような表情で見つめたのでさらに手を振った。
「悪いことをやっちゃったのだ。 あとで謝るのだ」
櫛田の頭に当たったボールを持ってきてたわむれを言う。
「ふざけるなお前! バスケ部のエースだと言いながらそれくらいも捕めないのがあり得るか!」
もちろん捕まれないと予想して投げたけどそんなことは今さらどうでもいい重要ではないのだ! こいつは俺に責任を転嫁したクズやろうだから……それでも、言い訳くらいは考えておこう、櫛田は怖いから。
「すまないのだ。実はバスケをはじめてから1週しか過ぎてないのだ。それでもエースの座を取るのはすぐだから、べつだん違いはないのだ」
頭が痛いのだ……
「中学校のときはサッカーをしてたのだ。日本のメッシといえば、まさにこの吾輩を示すのだ」
いままで見てきたことではこれも嘘だのだ……だろう。
◇◆◇◆◇◆
「今のはどうだったのだ、イケたのか?」
「はいはい、イケてるイケてる……」
「よし、がんばるぞいのだ」
いたずらな行動とは違って練習は熱心にしてる。ただひとり言で『こうやって掴むのがよいのだ』、『投げるときは体重をのせて……』、『今のはミスなのだ』など、ぶつぶつ言うのがちょっとあれだが、まあ対話さえなければ大目に見れる。
適当に星野の練習につきながら俺の視線は右隅を向いた。香菜と秋奈がいる。
2人はボールを持てなくて他の人たちが練習するのを見ているだけで、じっとしている香菜に比べて秋奈はボール持っているふりをしながら練習をしている……哀れだ。
確か2人とも運動はへただったよな、あれじゃ0点で決まりか。
いっしょにしたいのは山々なんだけど断るのが明らかで、ボールをあげるとしても無視する未来が丸見えだ。だからといってじっと見ることはできないし、ちょうどボールは俺の手にいる。
「何してるのだ。早くこの吾輩にパスするのだ」
「……」
よし! そっと投げて点を取ってみよう。
問題はこいつだけど……余計に手を伸ばしてまた櫛田ヘッドショットno.2事故が起きたら大変だけど…
「早く投げるのだ!」
せっかちな奴め。なら左にフェイクを入れて右に投げよう! 今までの動きを見ればこいつの反応速度はかなり速かったのでだまされるはずだ。
「投げるよ~」
言ったすぐ香菜がある方向にボールが飛んだ……ちなみに俺の手のボールはそのままいる。
かなり遠い距離から飛んできたのか、落ちるとき『ドン!』 と大きな音がして転がっているボールを、秋奈が身を投げながら小さな体で抱きしめた。
一歩遅れた俺はボールが飛んできたところを見た。
「おい、裕也。どこに投げるんだよ」
「ごめん、あ、取りに行かなくてもいいよ、ここにボールあるから」
裕也は赤髪グループの1人が取りに行くのを急いで止めて近くにいるボールを拾った……何だあれは?
どうやら秋奈の言うとおりに裕也はうちらをまだ友達だと思っているようだが、行動が理解できない。そして香菜を見ると裕也を悲しそうに眺めている……
あーあー何が何だか。
「吾輩の言葉が聞こえないのか! 早くパスをするのだ」
放置された星野が両手を振りながら叫んだ。
「ああ~ごめん。今投げる」
「何へらへら笑うのだ。きしょいなのだ」
……左隅に放り投げた。
星野は、まるで骨を追う子犬のようにうろたえながら走り出して俺はその間、香菜と秋奈が仲良くボールをやり取りする姿を眺めた。
なぜケンカしたのかは分からないけど、とにかくお互い友達だと思っていると受け止めればいいよな?
「ならいい」
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