10話 4月16日 観察④



「ヘイ~立花!」


「!?」


 ぼんやりしている俺に朝倉がボールを投げて近づいだ。


「いっしょにやろう」


「……いきなり投げるな」


「どうして怒るんだ、何かあったのか」


 朝倉が心配そうに言った。


 どうやら鋭く反応してしまったようだな。


「ボールが早く飛んできたからだ、お前才能ありそうな」


 申し訳ない気持ちを込めてパスした。


「へへっ、僕、運動神経いいんだ~」


 お世辞で言ったけど、まあ体格を見ればかなりうまくできそうだ。


「じゃ、どうして部活動に入らない、何か好きなスポーツとかはないのか?」


「ん? ……えっと、特に…? それに入ったら女と遊ぶ時間がなくなるから」


 実に朝倉らしい答え。


「そういう立花こそバスケ部に入らないのか?」


「まあ……面倒くさいでもあって…ん? なぜバスケ部だ」


「ん? 何が?」


「いや、運動部なら運動部で何でバスケ部って言ったんだよ」


「そりゃ、バスケが得意だって言ってたから」


「俺が!? いつ?」


「自己紹介の時。覚えないの?」


 ……あ、確かに言った、香菜に気を取られている状態で始めた自己紹介で、思わずバスケと言ってた。


「わたくしそんなこと言ったんですか? 覚えません忘れてください。わたくしバスケきらいです。なぜかですって? ものすーごっくへたですから」


「ん? 頭大丈夫?」


「大丈夫じゃないからバスケの話すんな。もうやめたから」


「本当に何があったのか……? とにかくいっしょにやろ」


 朝倉は体を左右に動かしながら両手でドリブルしてアピールをする…まったく見れないほどではないがバスケ経験はあまりなさそうだ。


「でもお前、そのボールどこから持ってきた? さっきまでボール取り合いが真っ最中だったのに」


「転がってきたものを採ってきた」


「ほお~すばやいじゃん」


「おう、女もそうやって採るものよ」


 ゴミのような発言を誇らしげに言うな。


「お前、そのうち刺されるぞ」


「心配するな、僕は人の女を貪るクズではないから大丈夫だ」


「なるほど、女癖は悪いくせに道徳は持っているんだな」


「たとえばあそこにいるうちのクラスの人気グループ…」


 朝倉は俺がさっきまで見ていた所を指した。


「女の子を狙うときは、あそこの中心の沙希ちゃんではなく、隣にいる女の子たちを狙った方がいい」


「へぇ~、じゃあの子たちを口説くのはできると?」


「いや~なかなか難しいかな、むだに高飛車なので…似合わずにな。だからもう一度飛ばしてその次の女の子を狙うのが賢明だろうってこと」


「見かけによらず知能的だな」


「恋は戦略だから……と、に、か、く!」


 朝倉は持っているボールを上げて力いっぱい俺に投げた。


「いっしょにやろう。僕、バスケはイマイチで」


「見れば分かる。それよりお前今おもしろいこと言ったな、むだに高飛車だって」


 それも似合わずにっと。


「ん? もしかして興味あるのか?」


「ねーよ」


「そうだろう、相原ちゃんが好きなのにあれくらいの女たちでは物足りないはずだ」


「……」


 いつも思うことだけど、今の香菜の姿を見て美人だと思うのは難しいだろうに、このように高い評価を下すということは……こいつ女を見る目は正確だということよね、では人を見る目はどうなのか確認してみようか。


「あそこにいるグループ…えっとカーストが高い子たちっていうか…」


「立花…そういうの気にしないタイプだと思ったのに……」


「気にしねえよ。ただ適当な用語が思い出せなかっただけで…とにかくあそこのグループは人気が多いよな」


「うーん…まあ、そうね」


「なぜ曖昧に答えた」


「いや、グループは目立つけど個人としてみるとちょっとあれだというか」


 おお、いいね~。俺が求める感じで言ってくれそうだ。


「じゃあ、あのグループから裕也が抜けたらどうなるんだ」


「長瀬? ……まあ、グループのパワーはかなり弱くなるだろう」


「いや、もっと詳しく言って」


 朝倉は『どうしてこんなことを聞くんだ』というような表情をしたが、催促させて言わせた。


「多分あんなふうに集まることはないだろう」


「ほお~、どうして?」


「まず女子グループは沙希ちゃんと残りという感じだけど、その沙希ちゃんの目的は長瀬だろうから」


 それは俺もそう思う。


「じゃあ残りは男子4人ということなんだけど、鳴海はグループから抜けそうで…」


 鳴海なるみと言った男子は裕也に押されない物凄い美少年で、裕也と同じバスケ部だ。


「では残るのは石神グループだけだろう」


 なるほど…


「つまり裕也が抜けると、グループが存続はこなこなになるということね」


「そう…だろう。沙希ちゃんグループと、石神グループの2つに分かれるから……それでも無視されるほどではないと思うけど…でか、どうしてこんなことを聞くんだ」


 秋奈が言った内容を思い出した。


「お前が見るにはあの子たちは裕也の友達に見えるか? それとも裕也の地位を利用するくそったれろ見えるのか」


「……いくらなんでもひどいんでは…」


「いいから答えからしろ」


「あえて言うと後者だろう…でも別に構わないじゃん、人が生きている世の中はたいていそうだから」


「ああ。そうだろ」


 そう、構わない。裕也だけが特別なことではない、正しいことではなくても悪いとは誰も言えない。


 それでも秋奈は孤独という単語を使ってまで裕也が苦しんでいると言い、あの子たちはうちらとは違うと非難した。


 あれ? ということは裕也はわざと孤独を自任するのか?


 率直に言えばいっしょに付き合ってる子たちは裕也の良いイメージを減らす奴らにしか見えない…特に赤髪の方はとってもなー。


 それに秋奈の言葉によればうちらと一緒にいるとその孤独ということから解放されるように言って、香菜とはけんかしたせいかできないと言い、秋奈も罪? を犯したというよく分からない言葉でできないと……


 なら俺とまた親しくなればいいのに、どうしてか演技までして俺から壁を作って近づけないようにした……まあーあくまで秋奈の言うことが事実の場合だけどな。


 結局、イメージを悪くしそうな奴らと似合って自分に罰を与えようとする行動としか見えない…どうして? それより一体何があったんだ!


 しばらく考えたけど……あかん! 複雑で頭が痛い、で言うか情報があまりにも足りないな、とりあえずもう少し見守ることにしよう。

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