8話 4月16日 観察②



「……本当に友達よね?」


「いい加減に信じろ、嘘をついて何の得がある」


「じゃあ相原ちゃんの趣味は? 本当に親しかったならそのくらいは言えるんだろう」


「趣味? ……読書?」


「なぜ疑問? それに教室で本を読む姿を見れば誰もがそう思うだろう…こうしたらもっと疑うしかないよ」


 やべー、疑いの目が濃くなった考え出そう。どれどれ…


「他のは…おしゃべり?  あ、でもこれを趣味と言えるのかな?」


「おしゃべり? あ、そういえば前は明るい子って言ってたっけ…いや、いくらなんでもおしゃべりは、もしかして同名異人の他の女の子を勘違いしているんじゃない?」


「そんなはずないんだろう今の姿で判断するな。 あの頃の香菜はすごく活発で口数が多くて、誰とでも仲良くなれる親和力を持った子だったと言ったでしょ」


 俺も押されないほどうるさかったので余計な討論で火をつけて喧嘩してた…ククク、やべ、思わず昔のことを思い出して笑いが出てしまった。


「いきなりどうした、 頭おかしくなったのか?」


「そんなわけないんだろう! ただ昔のことでつい…クク」


「何だ、面白い話か? 言ってみなよ」


「それがね、少女漫画がドラマ化したのがあたけどさ……」


 何言ってるという顔をした朝倉に『まあ~聞いてみて』と、手振りをしながら話を始めた。


「あるヒロインが2人の男に求愛される花しだけど、A男は女泣かせタイプに問題児、B男は人がいいイケメンに金持ちの一人息子。まあ~A男も悪くない顔を持っていらっしゃってるけど、B男に比べると足りない感じ――」


「……」


「俺はだれが見てもかんぺきなB男を推したけど、香菜はA男にはまってしまったの! 理解できない選びに問いつめたら口げんかになって、お互い退かないあいだに原作がA男と決まって完結しちゃった」


「……終わっ…」


「香菜は鼻が高くなって『本当~ミナトは女心をぜんぜん―、まったく知らないんだから~』ってプライドを傷つけることをためらわず言った。悔しかったけどこれはあくまで原作の話でまだドラマが残っていたので、逆転のいっぱつを期待しながら続けて見た……本当、時間がもったいないゴミドラマだった」


「……お、終わった?」


「ああ、終わった」


 朝倉が呆れたそうに見つめている。何だその目は、言ってくれと言って話したけどさ。


「……短いのはないか?」


「短いの? 成績くらべや好きな動物の話くらいなら」


「……じゃ、動物の話の方で」


 ったく、ほんとう要求事項が多いやつだ…どれどれ。朝倉の呼応に記憶を引きだした。


「確かに猫好きだった香菜が、友達と猫の話題で花を咲かせている時に『やっぱり、犬が最高だろう』と割り込んで言った。そっちょくどっちもどちって感じだった俺は、ドラマで味わった屈辱をひっくり返す一念で言いがかりをかけた」


「……終わっ…」


「それで俺は…」


「ああもいい分かった分かったからもう言うな」


 話が長くなると思ったのか焦りながら止めだした。


「お前、それ失礼だってば、 せっかく香菜との楽しい思い出を共有してくれたのに、そんな顔――」


「わりわり、でも十分に分かった。好きな子をついついいじめる幼い頃の未熟な愛情表現だったことを」


「違うって! 何度言ったら分かるんだ! それにあの頃好きな人がいたって言ったじゃん」


 朝倉の勝手な結論に叫んで否定した。


「ああ、年上のお姉さんね」


「そう」


 秋奈に冬姉のことを聞けばよかったのに…今度聞いてみよう。


「もしかして煙幕を張るための作り出した仮想の人物ではないよね?」


「冬姉を仮想の人物にするな! もちろん現実に存在しないほどきれいで、清楚で、エロエロで、後ろに光が輝いて女神と勘違いされるかも知れない存在ではありますが、間違いなく実在するんだ」


「うわぁ……名前はさておきキモイ設定まで……これはひどいよ、深刻なんだけど」


 こいつ人を妄想病患者のように見るなんて…もう無視しよ。


「そこまでなら僕が調べてみようか?」


「調べるって何をだ! 病院のことか!」


 無視すると言ったがついかっと反応してしまった。悪い癖だ。


「拗ねないでってば、いたずらしただけじゃない、それに調べると言ったのは相原ちゃんのことよ。聞けば聞くほど今の姿と全然違うから」


「だから言ったじゃん正反対に変わったんだって」


「だからこそよ、立花がいないうち変わった理由があるかもしれないじゃん。僕、知り合い多いから」


 まあ、毎日いろんな女子と遊びに行くくらいだから知り合いは俺よりずっと多いだろう。それに…


「いい、気持ちだけ貰う」


 やめよう。気になるけど秋奈が口をふさぐほど言いたくない香菜の過去を、裏調査しながらまで知りたくはない。


 そして立場が反対だったら香菜は何も聞かなかったはずだ。俺の暗鬱だった過去を……そう思い残ったカレーを食べることにした。


 くそ、余計な話が長くなってカレーが乾いてしまったじゃん…ん?


「なぁ~櫛田、本を見ながら食べるならもっと簡単なものが良くないか? おにぎりやサンドイッチとか」


 それでもまだご飯を食べている櫛田に話しをかけた。


「午後に勉強するにはちゃんと食べないと」


 ん? なぜかまともな返事を…珍しい。


「しっかり食べるのはいいが眠くないか」


 食後の眠気に耐えるのは並大抵ではない、まさに生徒の最大の敵といえる……もちろん勉強熱心な生徒限定でしょうが。だから俺や朝倉は例外だろう。


「そんなの俺だけじゃないんだろ」


「まあ、それはそうね」


 さすが櫛田はマインドが良くて強い。


 最近になって櫛田という人間を少し知るようになった。


 他人に関心のない態度だけどけして無視したり侮ったりはしない、ただ率直で遠慮なく話すだけで、まあ俺はこんなタイプが好きだから問題はない。それに真剣に聞いたらちゃんと答えてくれるようでこれから頼りになりそうだ。


 いたずらは受けくれないからつまんない所はあるが、その点は朝倉が満たされくれるので構わない。


「クッシー、つぎ体育だよ」


 ページをめくろうとした手が止まって顔が歪んだ。


 どうやら体育は嫌いみたいだ。まあこれは見た目通りで…ヒヒッ! でも体育か~


 櫛田とは逆に、俺のテンションはだんだん上がり始めた。


 昼以降、週に1つは体育、もう1つは芸術の授業をするようで、入学初の週は平凡な授業だけだったので今日が初めて迎える体育の時間だ。


 期待をしながら冷めているカレーを食べた。

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