間章1:野球少年がいなくなった地球①
抜粋:|鼎《かなえ》兄弟は、どんな二人だったのか(前編)
[週刊ミライ第382号:
メジャーリーグにて前人未到の活躍を成し遂げながらも、世界中を震撼させた電撃退団、そして失踪し行方不明となった鼎和夢選手。
一ヶ月が経過し、彼の行方は杳として知れない。
そんな彼の無事を、かつての恩師はどのように願っているのか。
鼎選手の母校。横浜市立北高校の野球部監督、隅田川先生がその胸中を語った。
記者「和夢さんは、高校時代はどんな子だったんですか?」
監督「まさに一意専心の子、という感じでしたね。野球以外の事に興味が無いというか。ああ、この子は野球をするために生まれ、生きてきた子なんやなって。その向上心が伝播して、チーム一丸となって成長していった。グラウンド設備しか自慢の無い、たかだか無名の公立校だったウチが甲子園で3連覇出来たのは、何も鼎兄弟の野球力だけじゃない。きっと人間力にも引っ張られたんでしょうな」
記者「確かに、和夢さんが卒業した今年も、激戦区の神奈川地区を北高校さんが制して、甲子園まで行けているというのはそういう事でしょうね」
監督「とはいっても、和夢のストイックさは異常でしたから、周りと衝突せざるを得ない場面もしばしばありました。というか、いざ取り組むとなったらなんでも夢中になるんですよね。何せ学業でも学年一位の成績を取ってましたし。授業は授業で集中していないと気が済まないとの事で」
記者「学業も一位ですか。確かここ、偏差値65越えの進学校としても有名ですよね?」
監督「あれは野球やってなかったら科学者とかになってたんじゃないでしょうか。でも、そのストイックさに対して、達夢が緩衝材になる事が多かったですな」
記者「達夢さんは、甲子園の通算ホームラン記録を大幅に塗り替えるほどの人物でしたが、どんな人だったんですか」
監督「和夢が努力型の天才だとしたら、達夢は天才型の天才ですな。まあ、それゆえにストイックさに欠けていた所はありましたが。しかし、流石は双子。彼はどんな時でも楽しんでいました。練習の時も、練習以外の時でも、試合の時でも、守備の時でも、そしてバッターボックスに立った時も、全力で笑顔でした。諸行無常そのものに同化して、尚楽しんでいるような不思議な奴でね」
[学校玄関に飾られている、甲子園優勝の写真。鼎兄弟が、優勝旗を手にしている]
監督「あの雷が無ければ。今頃達夢も、MLBで楽しんでいた筈」
[鼎達夢は、昨年落雷事故によって命を落とした。三年目、夏の甲子園が終わった一か月後。MLBのスカイフリーダムズからオファーを貰った直後の事だった]
監督「今でも夏が来ると思いだすんですよ。あの兄弟の事を」
記者「夏、とは」
監督「上手く言えないんですけどね。あの二人は、私を“夏”へと没頭させてくれたんです。あの二人の周りでは、たとえ豪雪の日だろうと、夏だった。野球の情熱とでも言うんですかね。それとも、あの二人にはいつも“夢”が見えていたんですかね」
[野球部部室に飾られた風鈴。どうやら鼎達夢が着けた物らしい]
監督「記者さん、あなたはどう思ってますか?」
記者「何をです?」
監督「高校時代、和夢は二刀流では無く、ただ変化球が物凄い投手だった。それが、メジャーに行ったらあんな魔球を投げていて、更には特大ホームランまで毎回かましていた。あれは、私の知っている和夢では無かったんですよ。特に、バットを持っている時は」
[以上、抜粋完了。(後編)に続く]
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます