第21話 リープ3回目(5)
「一人で育てるだけでも大変なのにねえ」と夏希は零した。
「だから私も旦那を捕まえようかなって」
「彼氏つくるの?」
「うん。子供にとってもお父さんは必要っしょ」
「まあ。そうだろうね」
「夏希さんの旦那さんみたいな人がいいなあ」
「そう?」
「そうだよ。昨日なんてずっと付き添ってたじゃん」
「そうだけどねえ」
「いいなあ。ラブラブじゃん」
「まあ、そうなるのかな」
悪い気がしなかった。こんなに英明のことを褒めてもらえるのは気持ちが良かった。
「そうだ!ここで仲良くなったのも何かの縁だしさ。落ち着いたらうちに遊びにおいでよ」
「えっ。いいの?」
「もちろん!雪絵ちゃんが退院して落ち着いたら、だけどね」
「嬉しい!私、ママ友ってできる気がしないからさー。夏希さんと仲良くできると心強い」
「私も初めての子育てだから雪絵ちゃんに仲良くしてもらえるとありがたいよ」
そんな流れで夏希は雪絵と連絡先を交換した。
「うちに遊びにくるときはばっちばちに化粧してきてね」
「ええー!夏希さんは私のすっぴんしか知らないからなあ」
「だからでしょ。どう変わるのか興味あるわー」
「言っとくけど別人だからね?」
「すっぴんが可愛いから、きっとめっちゃ可愛くなるんだろうなあ」
「いや、眉毛ない人に可愛いとか言っても説得力がないから」
茜を産んでから三か月後のよく晴れた日曜日。雪絵は約束通りに遊びにやってきた。「いらっしゃい」と出迎えた雪絵は、言っていた通りにばっちばりのギャルメイクだった。
「雪絵ちゃんって化粧すると印象変わるんだね。めっちゃ可愛い。もちろんすっぴんも可愛かったけど」
真っ先に食いついたのは英明だ。物珍しそうにしているだけのようでもあるが、声は嬉々としている。雪絵は照れ臭そうに笑った。
「ちゃんと眉毛もできるし、目もでかくなるでしょ。つけま命だしね」
屈託なく笑う雪絵の腕の中に赤ん坊はいない。
「あれ。
龍之介とは、雪絵が産んだ子である。茜と月齢は変わらない。小さな命をまさか一人きりにしていないだろうと、夏希は不安になる。
「今日はうちのお母さんが龍をみててくれることになってさ。だから私だけ来たんだ」
「そうだったの。一緒に連れてきたらよかったのに。うちには茜も居るんだし」
「いやいや。赤ちゃん二人も居たら大変じゃん。なにより私がゆっくりできないし。お菓子買ってきたから食べようよ」
雪絵が軽く持ち上げた紙袋には「シャトレーゼ」と書いてある。英明が茜を抱っこしているので、夏希が「ありがとう」とそれを受け取った。玄関からリビングへと雪絵を通す。
夏希には言いたいことが色々とあった。しかしそれをぐっと飲みこんで雪絵へと明るく接する。小さな命に対してどこか罪悪感があったが、そこに責任があるのかどうか問われても答えは「ノー」だ。それに、龍之介の傍に大人が居ないわけでもない。
お茶を淹れるために湯を沸かす。雪絵からもらった紙袋には、箱に入ったラスクが入っていた。ラスクは夏希も好きだ。箱から小袋入りになったラスクを三袋だして、それを一つずつ小皿に乗せる。
リビングからは「英明さんってまじイクメン~」と甘ったるい声があがっていた。英明はそれにまんざらでもない顔をしている。「私がいるのを忘れているのかしら?」と夏希は思ったが、苛々はしない。
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