第4章 リープ3回目

第17話 リープ3回目(1)

 目が覚めると、雷鳴が轟いていた。稲妻が走るたびにカメラのフラッシュのような光を浴びせられ、目を閉じていられずに瞼を開ける。視界に映りこむ天井の景色に、夏希は困惑した。

 

 なぜここに居るのか理解ができず、上体を起こす。きょろきょろと辺りを見渡すと、そこはかつての自分の部屋であった。つまり実家の自分の部屋である。色褪せた花柄の壁紙は高校生の頃に選んだものだし、部屋の隅には小学生になったときから使っている勉強机がある。

 

 悪天候のせいで太陽は隠れているものの、日の出は迎えているらしかった。

 

「なに……。今度はどういうこと……?」

 

 状況を確認するために、夏希はベッドサイドを目視する。そこにはスマホが置いてあった。しかしそれを見てぎょっとする。

 

「これ……。私が最初に買ったスマホじゃない!」

 

 それだけで十年以上前にタイムリープしてきてしまったことが分かってしまった。おそるおそる画面を開いてみると、そこには「2012年11月10日(土)」と表示されている。夏希はがっくりと項垂れた。まさか10年以上前にタイムリープするとは思わなかったからだ。

 

「2012年っていうと、英明と結婚する前の年よね」

 

 ちょうど結婚する前の年のクリスマスにプロポーズを受けたことを思い出した。

 

「これってどういうことなんだろう……」

 

 思い返すのは、リープ前の英明と真理の会話だ。冷静になった今だから察することができるが、二人は夏希と英明が知り合う前からの仲であり、それがずっと続いていたものと思われる。

 

「綾香のときも浜ちゃんのときも、よっぽど自分が哀れだと思ったけれど、これほどまでだったなんて」

 

 夏希は気づかないようにしていたことを確信した。英明は複数の女性との不倫を同時進行していたのだ。

 

「だから綾香のことを阻止しても浜ちゃんが出てくるし、二人のことを阻止してもキスマーク女が出て来たのね」

 

 ほとほと呆れていた。もう顔も見たくないと思うほどだ。「英明はどうして私と結婚しようと思ったのだろう」と逡巡する。夏希は好きだった。英明のことが大好きだった。信頼していた。生涯添い遂げようと思っていた。幸せだった。不倫さえなければ。

 

「どうしたらいいって言うのよ……」

 

 考えれば考えるほど涙が溢れてくる。そもそも、どうしてこんなにもタイプリープをさせられているのかさえ分からない。他の女性を口説いていることを知りながら英明と結婚することは、さすがの夏希にもできそうになかった。

 

 それじゃあ今までのタイムリープと同じように、他の女性と不倫関係にならないように奔走するかどうかを問われると、答えはノーだった。徒労に終わったからだ。

 

「それにあの真理っていう女とは大学時代からの付き合いみたいだし……」

 

 英明にプロポーズされる直前にタイムリープしたということは、付き合い始めてもう一年が経っている。ということは、真理との関係も続いているはずだ。それを清算させるには、真理との関係が発覚しなければならない。

 

 そこでふと、ある考えがよぎる。

 

「まだ英明と結婚していないってことは、結婚しない選択もあるってこと?」

 

 はっとした。英明への愛情は尽き果てている。それならば、結婚しなければ良いという考えが浮かんだのだ。

 

「ひょっとして今回のタイムリープは、結婚しないためのタイムリープなのかな」

 

 夏希はずっと疑問だった。なぜタイムリープをさせられるのか。不倫を阻止するためだと思ってきたが、結局のところ阻止に失敗している。あの雨の日がタイムリープの引き金になっていることは明白であった。

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