第14話 リープ2回目(6)
「こっちの話」
「そう。夏希が不安に思わないように、俺のスマホのパスは夏希の誕生日にしておくから。LINEもいつでも見ていいから」
「分かった」
それから夏希は英明と浜ちゃんのLINEを監視するようになった。それが効いたのか、お灸をすえたのが効いたのか、英明は浜ちゃんを口説くことはなくなった。たまに夏希が浜ちゃんを誘って女二人でご飯へ行くのだが、浜ちゃんもあれ以来変なLINEは来ていないと言っていた。
しかし夏希は気が抜けなかった。まだあの不倫の日まで七年もあるからだ。綾香のときも浜ちゃんのときも英明が不倫をする以前にタイムリープしているのだろうと、夏希はなんとなく予想を立てていた。
「ということは。浜ちゃんは英明とよくコンタクトがとれるから、七年後のあの日までいつでも不倫のチャンスがあるのよね」
そして裏を返せば、七年間浮気をしていたことだってありうる。気づきたくない事実ではあったが、浜ちゃんと出会ったばかりなのにあのようなLINEを送っている時点で、その可能性は高いだろうと夏希は思っていた。
「だとしたら、私は何も知らないピエロじゃない」
英明と浜ちゃんの本当の仲を知らずに、家族ぐるみの付き合いをしていた。浜ちゃんにいたっては、その後結婚だってする。よく考えたら、あの日英明と浜ちゃんはダブル不倫をしていたのだ。
「そんなこと、浜ちゃんにさせられない……!」
やはり、浜ちゃんと英明の不倫はなんとしても阻止しなければならないと思った。それからは、夏希も英明のサークルへとついて行くようにした。はじめは迷惑かとも思ったが、テニスサークルの人たちは優しく、夏希がマネージャーのような働きをすることで仲を深めることができた。
英明はというとそれに喜んでいた。「夏希さんって良い奥さんだね」と言われるたびに、デレデレと夏希のことを自慢していた。
夏希が妊娠をしてからは、英明もサークルへと顔を出すことを控えた。二人で参加するのが当たり前になっていたため「夏希が参加しないなら俺も家で過ごすよ」と夫婦の時間を大切にした。
浜ちゃんとは頻繁に連絡を取り合った。茜の妊娠・出産のときが一番危ないと思ったからだ。妻が子供を身籠っている間に余所で女を作る話は巷でよくある話だ。茜を妊娠している間に英明と浜ちゃんが距離を縮めようものなら、夏希の苦労はすべてが台無しになる。
妊娠している間も、出産してからも、夏希は英明への労いを忘れなかった。前回までは茜を産んでから夜の生活が皆無になっていたが、それも頑張った。幼子を産み落とした身体で応えるのは拷問ではあったが、家庭を守るためと思えば苦ではなかった。
そうして無事に綾香と出会う日も迎え、前回と同様に徹底して英明と合わせないよう努めた。浜ちゃんのことを気にかけながら綾香のことも阻止するのには気力がいったが「英明がこれで不倫をしないのなら!」と思えば踏ん張ることができた。
あの雨の日がやってくる。もう三度目のあの日だ。雨の日を明日に控え、夏希は緊張していた。受験結果を明日に控えているような心境なのだ。
「川添さん。いい加減に電話に出てくれない?今日は一回も出てないでしょう」
「え。あっ。すみません。次、私が出ます」
「お願いね」
仕事中も明日のことが気になってしまっていた。同僚に小言を言われたことで「いけない」とやっと気持ちを切り替えることができた。パンパンと両手で自身の両頬を叩く。「どんなに悩んでも結果は明日出るのだから」と思い直した。
仕事を終わらせると、急ぎ足で茜を迎えに行った。「今日はこんなに晴れているのに明日は土砂降りなんだもんなあ」と、ふと空を見上げながら思う。茜を泣かせる結果にだけはしたくない。保育園へと到着して茜のクラスへと顔を出すと、一目散に「ママ!」と我が子が駆けてきた。
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