第13話 リープ2回目(5)

「申し訳ないついでに折り入ってお願いがあるのだけど」

「なんですか?」

「この画面ってスクショできる?」

「はい。できます」

「それじゃあ、それを私に送ってほしい。みっちりあの男のことは絞っておくから」

「夏希さん、すみません。私もちゃんと自分でできなくて」

「いいのよ。悪いのは英明なんだから。またなにか英明が変なことしたら、逐一私に教えてくれる?」

「はい!もちろんです」

 

 夏希は笑顔だったが、腸が煮えくりかえっていた。しかし、英明の手口を知ることができてラッキーだとも思った。これで浜ちゃんとの不倫を阻止する方向へと持っていくことができる。そこである考えが頭をよぎりかけたが、夏希はやはり首を振ってそれを取っ払った。

 

 浜ちゃんが帰った後、夏希は英明をソファへと呼んだ。笑顔の夏希に英明は抱き着く。

 

「ねえ、英明。浜ちゃんって可愛いよね」

「ん?ああ、そうだね」

「浜ちゃんって英明のタイプなの?」

「可愛いとは思うけどタイプではないよ」

「そうなんだあ。じゃあ、このLINEはなに?」

 

 夏希は浜ちゃんからもらったスクショをスマホに表示して印籠のごとく提示した。途端に英明は蒼褪める。

 

「え、え。ええ!?」

「浜ちゃん可愛い。めっちゃ俺のタイプって書いてありますけど?」

「な、なにそれ」

「なにそれって私が聞きたいんだけど。どういうこと?」

「いやいやいやいやいや」

「なにが?」

「言葉の綾だろ」

「どこが?めっちゃデートに誘ってるじゃん」

 

 英明は真夏でもないのにだらだらと汗を滴らせる。

 

「いや、デートっていうか。御飯に誘っただけだし」

「ちゃんとデート行こうって書いてありますけど。あと、そもそもさ。女の人と二人でご飯行ったら普通にデートでしょ。私に黙って行くつもりだったよね?」

 

 尋常じゃない汗の噴出に英明は観念したのか「ごめんなさい……」と花がしおれたように小さくなった。それを見て夏希は「まだ本当に浮気をしたわけじゃないから釘をさしておこう」と思った。

 

「浜ちゃんと二人でご飯に行くのは禁止だからね」

「なんで!ペアなら仲を深めないと息が合わないだろ」

 

「この期に及んでこの男は……」と夏希は分かりやすく溜息を吐く。

 

「息を合わせる練習は、サークルの練習中にやればいいでしょ」

「阿吽の呼吸みたいなものがあるんだ」

「この期に及んでそんなことを言うの?」

「浜ちゃんはただの友達だよ」

「どの口が言ってるのよ」

 

 息を吹き返した英明のへし折ってやるために、夏希は浜ちゃんからもらった大量のスクショ画面のうち一つを表示してそれをまた「この紋所が目に入らんか!」ばりに突きつける。

 

「ここにちゃんと「浜ちゃんに俺の彼女になってほしい」って書いてありますけど?」

「こ、これは……!」

「どこが友達なのよ。めちゃくちゃ口説いてるじゃない」

 

 さすがにもう観念したのか「ごめん。ほんの出来心で」と英明は謝った。「その言い訳は何度聞いただろうか」と夏希は思ったが、それは言わないことにした。今回のタイムリープでその言い訳を聞いたのは一回目だからである。

 

 あまりにもしゅんとしている英明の姿を見ていると、このLINEを送ったのは本当にこの人なのだろうかとさえ思えてくる。不倫だってそうだ。二回も現場に居合わせた夏希だが、英明の顔を見るとどうしても不倫が信じられなくなるのだ。

 

「私も重症だなあ」

「え?」

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