第12話 リープ2回目(4)

「ねえ、浜ちゃん。せっかくだから連絡先を交換しようよ」

「え!いいんですか!」

「もちろん。英明がこれからお世話になると思うし」

 

 夏希と浜ちゃんはLINEを交換した。これでいつでも浜ちゃんとやりとりすることができる。そこで夏希は玄関の方を伺った。電話をするのに英明は外へと出て行ったため、しばらくは帰ってきそうにない。

 

「……ねえ、浜ちゃん」

「なんですか?」

 

 ごくりと喉を鳴らした。これはもう、一か八かの賭けでもある。浜ちゃんから英明に告げ口されれば、浜ちゃんと英明の不倫を阻止することはできない。ましてや英明から疑いの目をかけられるかもしれない。しかし今の夏希にはこの方法しかないのだ。

 

「妻の私には言いにくいかもしれないんだけど……。英明から口説かれてない?」

「えっ」

 

 浜ちゃんは奥二重の目を丸くして心底驚いた顔をした。

 

「いや、なにもないならいいんだけどね。英明、浮気癖があるの。だから浜ちゃんのことも口説こうとしてくるかもしれない。でも浜ちゃんは今日会ったばかりだけど、とってもいい子だと思う。だから、奥さんがいるような男と付き合っていいような女の子じゃないと思う。だからもし、英明に口説かれるようなことがあれば、私に教えてくれないかな?」

 

 浜ちゃんは口をあんぐりと開けて絶句していた。なんと答えていいのか言葉が見つからないようだった。

 

「ごめんね、今日会ったばかりなのにこんなこと言って。私が浮気されるのはもう仕方ないんだけどさ。浜ちゃんにまで迷惑をかけたくないから。万が一、浜ちゃんと英明が不倫するようなことがあれば、私は浜ちゃんにも慰謝料を請求しなきゃいけなくなる。そんなの嫌だから」

「夏希さん……」

 

 真剣な夏希に、浜ちゃんは徐々に心を動かされていた。

 

「こんなこと夏希さんに話すことじゃないと思うんですけど……」

「なあに」

「実は英明さんからデートに誘われてて……」

「えっ」

 

 浜ちゃんはスマホをタップして英明とのLINEを表示させると、それを夏希に見せた。そこには「浜ちゃん本当に可愛いよね」「今度デートに行こう」という文面が羅列されていた。

 

「やんわりとお断りしてもまた次の日には御飯に行こうってくるんです」

 

 今度は夏希が絶句した。まさか英明の方からこんなにもぐいぐいと迫っているとは。そしてそれは、既視感があった。夏希もこうして英明に言い寄られたのだ。全身がわなわなと震える。夏希の怒りに浜ちゃんは気づいていないのか、続けた。

 

「デートに行かないと男女ペアも解消するって言われて。英明さんと絶対に組みたいってわけじゃないんですけど、ペアで仲が悪くなるとサークルに居づらくなるんです。だからどうしたらいいか困っていて」

 

 許せないと思った。「相手の立場が弱いことをいいことに口説こうとするなんて」と夏希は腹が立って仕方がない。

 

「浜ちゃん。話してくれてありがとう。気持ち悪かったでしょ」

「気持ち悪いとかはそんな……」

 

 言葉を選ぶ浜ちゃんに夏希は申し訳なさが込み上げる。

 

「いいのよ、正直に言って」

「……正直に言う炉、頭大丈夫なのかなって思いました」

「本当に英明がごめんね。申し訳ない」

 

 テーブルに三つ指をついて、浜ちゃんへ深々と頭を下げた。「そんな!顔を上げてください!」と浜ちゃんは両掌を夏希に向けてぶんぶんと振った。ゆっくりと顔をあげると、浜ちゃんの眉が下がり切っている。

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