第11話 リープ2回目(3)
そこで夏希にはふと疑問符が浮かんだ。綾香との不倫がなくなった代わりに、浜ちゃんと不倫することになったというのはどういうことなのだろうと。
浜ちゃんとの接点は綾香よりも前である。一瞬だけ嫌な考えがよぎるが、夏希は首を振ってそれを払った。
「まさか、ね」
兎にも角にもまずは浜ちゃんとの不倫を阻止することである。今回は綾香との場合と違って、浜ちゃんは英明側の知り合いである。阻止するためには、浜ちゃんと仲良くならなければならない。むしろ、浜ちゃんにとって英明よりも夏希の方が大事な存在にならなければならない。
「尚且つ、浜ちゃんには英明への警戒心を持ってもらわないといけないよね」
夏希には英明の手口が分からない。むしろ、英明の方から誘っているのか、それとも浜ちゃんや綾香の方から誘っているのか、それさえも分からない。
「そのどちらもってこともあるよね」
英明と出会った頃のことを思い返してみる。英明と夏希の出会いは友人の結婚式だった。夏希は新婦側、英明は新郎側の友人として出席をしていた。その二次会で仲良くなり、交際することになったのだ。
英明はマメだった。出会った次の日から毎日メールをくれ、デートにもたくさん誘ってくれた。少しの時間があれば会いに来てくれたし、毎日のように電話もした。思い返してみると、浜ちゃんとも綾香とも毎日連絡をとっている様子はなかった。
「それでも私の知らないところで連絡をとっていたっていうことよね……」
夏希には考えても分からなかった。でもそれが答えを出しているようなものだと、まだ気づかないふりをしていた。
日が暮れかかった頃、英明が浜ちゃんを連れて帰ってきた。夏希はエプロン姿で二人を出迎える。
「ただいま。こちら、浜ちゃん」
「
「はじめまして。英明の妻の夏希です。私も浜ちゃんって呼んでいいのかな」
「もちろん」
浜ちゃんは小麦肌がよく似合う奥二重の可愛い女の子だ。年は夏希たちより三つ下だ。ワンレンのボブヘアーがふわりと揺れている。小柄な体格だがほどよく筋肉がついており、健康的なのが服の上からもよく分かる。
「どうぞ、あがって。大したものはないんだけど、夕飯を食べて行ってね」
「ありがとうございます。お邪魔します」
浜ちゃんをリビングへと案内し、食卓へと座らせる。「七年後あなたはここで英明と不倫するのよ」なんて口が裂けても言えない。夏希はただ浜ちゃんのプロフィールを聞きながら、準備していたカレーとサラダをテーブルへと並べた。英明もそれを手伝う。
「それじゃあいただきましょう」
「いただきます」
「いただきます」
綺麗なフレンチネイルを揃えて、浜ちゃんは「いただきます」と言った。その仕草は小動物のようで可愛らしい。身なりはスポーティーなのに仕草は女性らしいところが、浜ちゃんの魅力であると夏希も思っている。
一応これが初対面ということなので、夏希は浜ちゃんへと積極的に質問をした。夏希に対して緊張している浜ちゃんが新鮮で、すらすらと言葉を並べる。浜ちゃんにする質問はどれも答えを知っているものばかりだが、大袈裟に驚いてみせて場を和ませた。
「あ。ちょっと電話出てくるわ」
食後のデザートにフルーツポンチを食べているところで、英明が席を外した。夏希にとってはチャンスである。浜ちゃんと二人きりになれるタイミングを伺っていたのだ。
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