第10話 リープ2回目(2)

「うん」

 

 英明は夏希の腕を引っ張り上げながら二人で上体を起こす。ベッドの上で向き合って座る。ゆっくりとトレーナーがたくし上げられる。冷たい空気に肌が触れ「ひゃ」とつい口から漏らしてしまった。

 

「俺のも脱がして」

 

 耳元でそう熱っぽく言われると、ぞくぞくした。数年ぶりの行為に照れ臭さが出てしまうかもしれないと思った自分を夏希は呪いたかった。照れ臭いどころか、早く抱かれたい気持ちが高まっている。

 

 言われた通りに英明のトレーナーを脱がすと、引き締まった身体が露わになった。どうしても触りたくなり、夏希の方から手を伸ばす。首に手を回すと、自然とまた熱いキスを交わした。

 

 英明の手は夏希の腹と腰を舐めるように撫でる。それが心地よくてそれに合わせるように身体が動いた。夏希の反応に英明は満足しているらしく、夏希が身に纏っているものすべてを取り払っていく。

 

「夏希、愛してる」

「私も。愛してるよ」

 

 英明はゆっくりと夏希を沈めていった。

 

 

 

 

 

 次に夏希が目を覚ますと、部屋の中は明るくなっていた。先ほどと異なるのは、布団に直接肌が当たっているということだ。「ん~」と気怠い声が隣から聞こえてくる。英明の体温だけが暖かい。

 

 何時か気になりスマホへと手を伸ばすと「10:16」と表示されていた。あれから随分と寝こけていたらしい。

 

「英明。もう十時だよ。そろそろ起きよ」

 

 頭頂部に話しかける。ぴょんと立っているアホ毛が愛しくてそこに手を伸ばす。サラサラと靡くそれをゆっくりと何度か往復させると「ん~」とまた気怠い声が聞こえてくる。

 

「今日ってなにか予定あった?」

 

 刈り上げ部分を撫で上げながら、優しく問いかける。夏希からすればもう七年も前のことだ。どんな風に過ごしていたのかを思い出すことはできるが、この日に何をしたかなんて覚えていない。

 

「……あ。今日、午後からサークルだった」

「え。じゃあ起きなきゃいけないじゃん」

 

 ベッドの下に散らばっている衣類へと手を伸ばす。英明にも衣類を渡し、二人でもぞもぞと身に着ける。「起きるかー」と英明が両手を天井に突き上げて伸びをするのを見ながら、夏希はベッドから降りた。

 

「そうだ。今日、帰りに浜ちゃん連れてくるから」

「えっ」

 

 心臓が大きく跳ねた。「浜ちゃん」というワードにまだ心の準備ができていなかったのだ。

 

「ほら。言ってたろ。サークルで男女ペアを組むことになったからって。夏希が不安にならないように、浜ちゃんのことをちゃんと紹介したいって」

「そっか。そうだったね。じゃあ浜ちゃんの分の夜ご飯も準備しとくね」

「うん。そうしてくれると助かる」

 

 もう七年も前のことだから忘れていた、と夏希は思った。「そっか。そうだった。英明がすぐに浜ちゃんを紹介してくれたんだった」ともう一度心の中で思い直すと「英明が出かけている間に作戦を練らないと……!」と意気込んだ。

 

 ブランチを済ませて英明を送り出すと、夏希はスケジュール長を開いた。この年のことを思い出すにはスケジュール長が手っ取り早い。今日のスケジュールにはちゃんと「浜ちゃんをもてなす」と書いてあった。夏希自身も浜ちゃんと会うのを楽しみにしていたらしい。まさか、七年後に英明と不倫しているとも知らずに。

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