第5話 リープ1回目(4)
「それでは全員が揃ったのでお教室を始めたいと思います。皆様、よろしくお願いいたします」
いよいよ編み物サークルが始動した。夏希は隣に座っている綾香の様子を伺うため、気づかれないように一瞥する。どこからどう見ても、二年前の綾香である。
「それではまず、自己紹介からしましょうか」
初回ということもあって、一人ずつ自己紹介からすることになった。端に座っている夏希と洋子がじゃんけんをした結果、優香から見て反時計回りの順番ですることになった。夏希はトリである。
「佐々木洋子です。普段は専業主婦なので、空いた時間にお菓子作りをしています。よろしくお願いします」
「
「田口琴です。昨年子供が生まれてなにか洋服をつくってあげたいなと思って編み物サークルに参加しました。よろしくお願いします」
「
「田所綾香です。普段は建設会社の事務員として働いています。よろしくお願いします」
「川添夏希です。三歳の子がいます。田口さんと同じで洋服を作ってあげたいなと思って参加しました。よろしくお願いします」
全員の自己紹介が終わったところで、優香からサークルの流れについて説明があった。月に一度集まってサークル活動を行うこと。優香の作品の展示会のお知らせがあること。サークルのメンバーで交流を深めること。そのどれもが、夏希にとっては経験したことがあるものばかりだった。
「それでは次回は来月ですね。そのときにはお教室終了後にお時間のある方だけでお茶にでも行けたらと思います。その出欠はまた後日とりますね。今日はありがとうございました」
今日の会が終了したところで、夏希は「そういえば!」とあることを思い出した。この後、綾香とのちょっとしたハプニングがあるのだ。「どうしよう」と夏希は考える。綾香とまったく関わらない人生を送ることが家族のために良いと思うものの、綾香と過ごした楽しい時間が思い起こされる。
そんなことをぐるぐると考えているうちに、サークルで一番の年長者である洋子が「みなさんでグループLINEをつくりませんか」と提案した。優香も「それでがいいですね」と言ったので、全員でグループを作ることになる。これでいつでも綾香と連絡がとれる状況となってしまった。
「それじゃあまた来月お会いしましょう」
ほのぼのとした空気感で、各々学習室を後にする。夏希も軽く会釈をしながら、サークルメンバーと共に学習室を後にした。その渦中で心臓がただならぬ速さで動いている。緊張しているのだ。
他愛のない世間話を七人でしながら、施設から出ようとしたときだった。
「あっ!」
綾香の何かを思い出したような声に、心臓がどきりと跳ねる。いよいよこの時がやってきてしまったのだ。皆が一様に「どうしたの?」と綾香を心配するため、夏希も同調する。綾香は青ざめた顔でバックを漁っている。
「それが、車の鍵が入っていなくて……」
「えっ。それは大変じゃない」
「一旦、バッグの中身を全部出してみたら?」
廊下脇にあるベンチに皆で集まり、綾香のバッグをひっくり返す。一つ一つ持ち物を並べていくが、そこに車の鍵はない。
「ど、どうしよう……」
綾香はもう泣きだしてしまいそうだ。
「でもここまで車で来たんでしょ?どうやって来たの?」
「エンジンはかかったんです。だから鍵はバックの中に入ってるかと思ってて……」
「さっき、車の鍵は閉めてこなかったの?」
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