第2章 リープ1回目
第2話 リープ1回目(1)
「夏希!夏希!」
ゆさゆさと身体を揺さぶられる感覚で、夏希は瞼を開ける。眩しい日差しが瞳に入り、中々はっきりと瞼を開けることができない。
「夏希!そろそろ起きた方がいいんじゃないか?」
それが英明の声だと分かると、瞬発的に意識が覚醒した。勢いよく上体を起こす。倒れてしまってあのままどうなったのか、茜の保育園へのお迎えはどうしたのかとぐるぐると色んな事柄が頭の中を巡る。
「今、何時!?」
「えっ。九時だけど……」
「ええっ!?」
辺りを見渡すと朝の九時だということがすぐに分かった。
「茜は!?」
夏希のあまりの剣幕に英明はたじろぎ「そこでまだ寝てるけど……」と指差した。英明の人差指の先へ視線をやると、子供用のベッドですやすやと眠る茜がいる。夏希は「はあ~」と大きな息をつきながら、がっくりと脱力した。
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
ベッドに腰かけて、英明は夏希の肩に手をかける。その瞬間、全身に鳥肌が走った。
「触らないでよ!!!」
自分でも驚くほど大きな声が出た。
「え……?!」
英明は切れ長の奥二重の瞳を丸くしている。まるで訳が分からないとでも言いたげだ。どうしてそんな顔をしていられるのか、夏希は腹立たしくなった。
文句の一つでも言ってやろうかと考えたとき、子供用のベッドから泣き声があがった。夏希の大声に茜が目を覚ましたのである。
「ああっ。茜。ごめんね。びっくりしちゃったよね」
「茜の前でこんなに取り乱したらいけなかった」と猛省しながら、夏希は身体を滑らせてベッドから出ると、子供用ベッドへと近づいた。泣いている茜を抱き上げる。しかしそこで「あれ……?」と不思議な感覚に陥った。
そして茜の着ているパジャマに気付く。そこでさらに混乱する。長袖の水玉模様のピンクのパジャマを着ている。しかしそれは、昨年の冬にもうサイズアウトしたものだった。それをどうして茜が着ているのか。
「茜……?」
泣いている茜の顔をよく眺める。髪の毛を手櫛で梳くと、その違いは一目瞭然だ。昨日、茜はふわふわの猫っ毛を編み込みして保育園へと行った。しかし今抱っこしている茜は編み込みできるほどの髪の長さがない。
一体どういうことだと英明へと目をやると、先ほどまで気づかなかったことに気付く。英明の髪の毛にパーマが当てられているのだ。
「あ、あれ。英明、そんな髪形だったっけ……?」
「え……?何言ってんの?この間からずっとこれでしょ」
「そ、そっか。え……?」
「どうしたの、夏希。寝ぼけてるの?今日は編み物サークルに行くから起こしてって言ってたじゃん」
「編み物サークル……?」
「うん。今日、初めて行くんでしょ。だから茜は俺が子守りするって」
どくんと心臓が大きく跳ねた。「編み物サークルに初めて行く……!?」と心の中で叫ぶ。
「そ、そっか。え、えっと。今日って令和何年だっけ?」
「はー?もう朝からどうしたんだよ。令和三年だろ?」
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