第2話

二日目 


西村は相変わらずパイプ椅子にもたれかかっていた。なんとなく気になったので、また例の文書をパソコンで開いてみる。すると昨日の日付のものが追加されていた。


7月11日 仕事中、ずっと携帯を見ている奴がいる。腹が立つ。

      


更新されているということは、どうやらあいつの記録簿ではなかったらしい。そうすると社内の誰かが、愚痴でも書き込んでるのか。共有のフォルダに保存するなんて危ないことをするもんだ。

その日は特におかしなこともなかったが、唯一失敗したのは巡回中に、観葉植物の鉢につまづいてひっくり返してしまったことだ。あわててこぼれた土を鉢に戻して、床の汚れをごまかした。まあ目立たない場所だし、ばれないだろう。そう思った西村は記録簿に異常なしと書き込んだ。


                三日目 


さっそく暇になった西村は例の文書を開く。もはやちょっとした楽しみにもなっていた。


7月12日 観葉植物の鉢がひっくりかえされた。ふちが欠けている 大事なやつだったのに


ちっ、ばれたか。西村は舌打ちした。鉢がかけたことには気づきもしなかった。まあ自分がやったことはばれていないし、このままやりすごせるだろう。西村はすぐにスマホの画面に夢中になり、そのことは忘れた。


四日目 


腹が減った西村は、持ち込んだカップ麺をすすっていた。いつものように例の文書を眺める。


7月13日 嫌なことをされた むかつくので三階の絵をめちゃくちゃにしてやった。


おいおい。ここの社員はどうなっているんだ。西村は呆れた。だいたい仕事で嫌なことがあって、絵に報復するなんて子どもじみている。巡回の時に、その例の絵とやらをみにいってみた。入り口横の小さな額縁にライトを当ててみると、なんだか暗い絵の具でぐちゃぐちゃに塗りつぶされている。元の絵がなんだか知らないが、これじゃすぐにばれるだろう。西村は書き込みをしたやつを馬鹿だなと思った。いつも通り異常なしと記録簿を書いて、仕事を終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る