OBSERVATION
南サザ
第1話
一日目
西村は、錆びたパイプ椅子に腰かけていた。つまらなそうにスマホをスクロールしながら、時々モニターに視線を向ける。知り合いに割のいいバイトと紹介されたのが、このビルの夜間警備員の仕事だった。モニター監視と、一時間に一回の巡回をするだけの簡単な作業で、バイトを掛け持ちしている身としてはありがたかった。普段その仕事をしている知り合いは、用事ができたらしく、夏の間だけの代打として頼まれたのだった。
モニターは三台あり、一階ロビー、二階と三階のオフィスの様子が映し出されていた。警備員室は、一階のロビーの隅の小部屋にあった。
忙しくないのはうれしいが、やることがないというのも考え物である。退屈していた西村は何気なく部屋を見まわすと、古いノートパソコンが傍らに目に入った。画素が荒く、音もウィーンとうるさい。そのパソコンは警備員用のもので、デスクトップに社内共通の保存用フォルダがあり、毎回仕事が終わった後、記録簿を保存することになっていた。何の気なしにフォルダを漁ってみる。高度な技術資料から、何かの行事の写真まで、無造作に放置されていた。今時社員旅行に行く会社なんて珍しい。
ふと無題の文章ファイルが紛れ込んでいることに気が付いた。開くと、日付とコメントが書かれていた。
7月8日 異常なし
7月9日 異常なし
7月10日 二階へ上がる階段の非常灯が切れている。交換してほしい
文章と日付からして前任者の記録簿らしい。記録をもっと遡ってみる。
6月8日 深夜まで仕事をしている社員、パソコンの音が大きすぎる うるさい
6月9日 また深夜まで仕事をしている社員がいる いやパソコンでAVを見ている いいかげんにしてほしい
あいつこんなことまで報告しているのか。西村は笑いが込み上げてきた。他にも、誰かがカップ麺をそのまま放置して臭くてたまらないだの、細かいことがいちいち書かれていた。雇い主はこれを読んで何を思ったのだろう。まあ何の反応もしていなさそうなところをみると、あまり真面目にチェックもしていないのかもしれない。西村はファイルを閉じた。
その日の勤務は何事もなく、記録簿に異常なしと記録した。
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