第4話 出会い
あの手紙に対して返事を書いてからはや2週間。
あれやこれやといううちに俺とアナスタシア様の婚約が決定し、まさかまさかの今日家にやってくることまで決まった。
はっきり言おう。この世界においての貴族間の婚約速度としては異例だ。おそらくダントツの1番だろうな。2週間で婚約、顔合わせもしないうちに同棲決定なんだからな。
婚約が成立しこのまま行けば結婚だからな。これ、将来子供ができた時にどうするんだよ。「お父様はなぜお母様と結婚したんですか?」って聞かれたら何も答えれねぇよ。
この2週間、我が家は大変お忙しかった。仮にもここに嫁ぐのは公爵令嬢で聖女候補様だ。そりゃ大層なお出迎えをしなくてはならない。だが、それよりも大事なことがあった。そう、お部屋である。我が家は一応父上が報奨として頂いたこともあり、それなりに立派な家である。
しかし、いくらなんでも公爵家と比べれば見劣りする。どころか大きさが全然違う。それゆえ、まず行ったことは我が家で1番大きなお部屋を全て片付けてアナスタシア様様のお部屋に改善した。次にレイセン家の侍女が来るはずだ。そのための部屋も用意しなければならなかった。そちらも何とか確保。
しかし、侍女の数が想定より多かった場合こちらで寝具すら用意出来ないような状態だ。果たして上手くいくだろうか?
「あぁー、やっぱこの婚約無しってことにしてくんねぇかなぁ」
「坊ちゃん、諦めも時に肝心ですぞ」
「このクソ執事差し出すから逃げる訳には行かない?」
「その場合は坊ちゃんの首も共に差し出すことになりますな」
やめろやめろ、無駄に殺気だすな。冗談に決まっているだろ。全くうちの執事は冗談も分からないのか。
「お兄様のおよめさんはどんな人なのですか!」
こちら側(俺や父様、執事、メイド組)のどんよりムードに対してアナスタシア様の到着を楽しみに待つのはお母様とうちの弟妹だ。
「あぁー、優しい……人かな?」
弟のアルフレッドに対して聖女っぽい要素を思い浮かべて答える。
「綺麗な人ですか!」
「綺麗…だと思うよ」
妹のアリスに対して噂の内容を答える。この2人は俺の今世での家族なのだが、なぜかは本当に分からないのだが俺は謎に信頼されている。その証拠に2人の目はキラキラと輝いている。
絶対、
「尊敬するお兄様の婚約者なのだから素晴らしい人に違いない!」と思っているのだろう。
お兄様はそんなにすごくないよ?今もスローライフな生活を夢みて面倒事はこの2人に押し付ける気満々だと言うのに。
そうこうしてる内に馬車の音が聞こえてきた。気分的には頭の中にドナドナが流れている。
しかし、変だな……。父上もその異変に気づいたのか目を細めて遠くの馬車の方を見ている。
明らかに馬の足音が少ないのだ。これでも俺たちは戦場で活躍している兵士だ。馬の音なんて聞き慣れている。その気になれば聞くだけで大体の数も分かる。
今遠くから聞こえている音から察するに1馬、多くても2馬しかいないぞ。
目を細めて遠くを見ると一台の馬車がこちらに向かってきているのが見えた。
そのまま後方からさらなる馬車が現れることなく、一台の馬車の扉が開いた。
「お嬢様、こちらになります」
そのままゆっくり降りてきたのは黒いスカートに黒い服、綺麗な銀髪も束ねて顔を黒いフェイスベールで首まで隠した人だった。まるで黒子を思わすような人だった。メイドか?
「ようこそお越し頂きました。私、この度アナスタシア様の婚約者となりましたギルファー・フォン・デモニオと申します」
可能な限り丁寧な所作を意識して1つお辞儀をする。
「……お初目お目にかかります。私はレイセン公爵家が長女アナスタシア・フォン・レイセンと申します。この度はデモニオ名誉騎士爵子息と婚約させていただくことになりました」
!?何!?この黒子みたいなお方がアナスタシア様だと?
よく見るがそのドレスは王都でしか買えないような高価な品には見えない。加えて何だろう?流行とかは知らないがどこか暗い雰囲気を感じる。
……そうか。この姿、まるで前世で見た喪服みたいだからだ…。
それにしても動揺を声にも顔にも出さなかったことを褒めて欲しいものだ。
御者はアナスタシア様の近くに荷物を1つ置くとアナスタシア様にお辞儀を1つしてから帰って行った。
その荷物も旅行程度の大きさにしか感じない。あと、荷物といえば手に持ってる
「あの、お付の侍女などは…」
「……特にお連れしていません。デモニオ家でお世話になるのは私1人です…」
マジか……。侍女も連れてこないなんて冗談だろ。仮にも年頃の娘を身一つで寄越すなんて正気か?
しかも公爵令嬢だぞ?お付の侍女の1人ぐらいは居たはずだろ。
…いや、連れて来れなかった…のか?だとすると本格的にレイセン家はアナスタシア様を捨てたことになるんだが………。
しかも顔が見えないのでわかりにくいが、この人俺の
…………試す…か…。
「ウォッホン。坊ちゃん」
セバースの声でハッと現実に戻った。
「長旅のところお待たせて申し訳ございません」
「……いえ、お気になさらず」
俺の中にある
「では、アナスタシア様、こちらへ。屋敷の方へと………」
その瞬間だった。
俺と1メートル程の距離にいたアナスタシア様が後ろの方へ飛び退くと直ぐにロッドを俺の方へと構えていた。
「あ、アナスタシア様!?何かございましたでしょうか!?」
アナスタシア様の反応に慌てたように反応するのはセバースだ。
「?……失礼いたしました…。私の……気のせいでした…」
周りをキョロキョロと確認したあと、ゆっくりと
ちなみに母や弟妹達がアナスタシア様の行動に驚きを見せる中、父上だけは「ほぅ…。中々の動き…」と口端を挙げていた。戦馬鹿め。
「………では、改めて屋敷の方をご案内させて頂きますね」
魔力の放出をすぐに抑えて俺も笑顔を作り直し、アナスタシア様を屋敷へと案内した。
_______
「……こちらで屋敷の案内は全てです」
「…ありがとうございます」
俺が婚約者のアナスタシア様と顔合わせ(アナスタシア様のご尊顔はまだ拝見していない)を行ってから約1時間。デモニオ家の紹介もこの部屋で最後だ。
……この後、どうすればいいんだろ……。前世でも恋人はおらず今世では戦い明け暮れて女の子と関わりがなかったからどんな話をすればいいのかも分からない。
「「あの」」
偶然にも俺とアナスタシア様の声がハモってしまった。
「…お先にどうぞ」
「…あ、あぁ〜大したことでは無いのですが、何かご要望とか御座いませんか?ご質問でも大丈夫ですよ」
「では、おひとつご要望を聞いてもらってもよろしいでしょうか?」
「勿論!!」
「お食事なのですが、私の部屋までお運びいただいてもよろしいですか?」
「えぇ、使用人にもそのようにお伝えしておきます。アナスタシア様のお食事中は誰も近づかないようにもお伝えしましょう」
「……ご配慮ありがとうございます」
「……本日は長旅でお疲れでしょう。残り時間はご自分の部屋でごゆっくり休まれますか?」
「………そうさせて頂きます。それでは失礼します」
その日はアナスタシア様と別れ、もう会うことは無かった。
_____
「セバース、いるか?」
深夜、母上やアナスタシア様も寝静まった時間だが、俺はまだ眠れてなかった。
「こちらに」
「……………一応確認なんだが、お前、アナスタシア様と会った時に俺の魔力を感じとれたか?」
「……いえ、私には」
「……だよな」
セバースは優秀な騎士だ。僅かな空気の異変でも感じ取れることが出来る。その感知力で言えば我が家で随一だろうな。
「……俺は魔力を本当に僅かにしか放出しなかった。それでもアナスタシア様はそれに反応したんだ」
「……なるほど。それであの時、あのような対応していたのですね」
「……おそらくな。もしかしたら別の何かを感じ取ったのかも知れないけど」
「それは無いでしょう。私や坊ちゃんですら感じられなかったのですから」
「……だよなぁ。加えて今日1日アナスタシア様と居たんだが俺の呪いに反応する素振りも見せなかった」
「……ふむ。しかし、坊ちゃんの呪いに関しては何とも言えぬ所ですな。坊ちゃんの呪いは初対面のみに効く呪いです。慣れてしまえばなんともありませんし、感情が弱い人だと効きませんしね」
「それでもだろ」
「坊ちゃんのおしゃりたいことは分かりましたよ。噂に懐疑的なのでしょう?」
「……あぁ。とてもじゃないが俺には聖女の力を失ったとは思えない。何か必ず裏がある。悪いが王都でもう一度調査を行ってもらいたい。ちょうど今、停戦中で余ったスパイとかいるだろ?報酬はきちんと払うから」
「畏まりました。期間と人数はどうされますか?」
「そうだな。人数は2人以上だ。今は平時とはいえ、いつ戦が始まってもおかしくはないからそんなに人数はかけるな。そして2部隊に分けろ。1つは1週間以内に、もう1つは2ヶ月を目安とした2つだ。選抜はセバース、お前に任せる」
「畏まりました。それにしてもこのような回りくどい方法を使わなくてももっと良い方法があるというのに……」
「…ほう。どんな方法だ?」
「坊ちゃんがアナスタシア様に直接お伺いすればよいのですよ」
「んな事出来るか!ただでさえ何話していいのか分からんのに!!そんなプライベートな話いきなり出来るわけないだろ!?」
「はぁ。ベクトル様はそちらの方でも豪胆なお方でしたよ?」
「父上は脳筋だからな。あれと一緒にされちゃ困る」
「……坊ちゃんがただヘタレなだけでは?」
「あー!うるっさい!もう寝る!!俺が言ったことちゃんとやっとけよ!!!」
俺はそのままふて寝した。
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