第75話 さいくろん

 部屋の置かれた寝台の方から、お姫さんの声がした。


 寝台からチラリとこちらを見ているおかめ顔。

 具合が悪いせいか─────ちょと怖い。


「‥‥‥‥NO.165!黒騎士モード衣装っ!良しっ‥‥‥‥」


 それだけ言うと、ぷしゅうと枕に埋もれてしまった。

 スゴイ意気込まれて、こっちは引いてしまったがNO.165?全部記憶しているの?

『黒騎士モード』てなによ。 私の知らないゲームのコスプレ衣装なのかな?‥‥‥‥怖いから聞くのはやめておこう‥‥‥‥。


「調子が悪いんだって?私が視て‥‥‥‥」


 一歩部屋に踏み出すと、またしても蜘蛛の糸が顔をかすめていく。

 ─────またかよ。ぺいぺいっと手を振って振り払っていると、シロ君が鼻をスンスンさせてあちこちウロウロしている。


「─────シロ君、どうかしたの?」


 離れた場所で、尻尾をビっタンビっタンと不機嫌そうに床に打ち付けながら、姫様の方を見ている。


 ─────こっから見てみろ。と言わんばかりの視線。

 なになに?何か見えるの?いそいそシロ君の傍近付いていくと、窓から差し込む光に照らされて目の前で何かが反射する。


「─────ん?なんだコレ?」


 視線を辿ると、光るそれは長い糸のようだ。

 さっきから触ってくるのはコレか?手で払うと糸は簡単に切れた。感触はやっぱり蜘蛛の糸のようだ。

  

「‥‥‥‥わ」


 そこから姫様の寝台の方に視線を向けると、部屋のいたる所で糸が天井から垂れ下がり、それが陽に照らされて無駄にキラキラ反射している。


「─────リオ様?」

「お姉さん?」


 部屋に蜘蛛がいっぱいいるかもとか、ちょ~と言えないかな。


「『窓、オープン』!!」


 パンッパンッパーン!と勢いよく部屋の窓が全開に開く。


「─────からのっ『大掃除』っ!!」


 ─────ぶわっと室内に風がいくつも渦巻き、室内を嘗めるように這っていく。

 イメージは床を移動するお掃除ロボット。どこでも移動しちゃうぞっバージョンだ。

 

 ─────部屋全体を這った風は、渦を巻いたまま外へ出で行く。

 後は、部屋全体の空気を入れ替えてっと。


お姫さんの方を見ると、あれほどあった蜘蛛の糸は、きれいさっぱりなくなっていた。よしよし

 それに加えて、部屋全体の壁紙までビカビカになってしまった。

 置いてあった家具や年代物であろう花瓶まで、つい最近作ったかのような新品ぶりになってしまった。


 ‥‥‥‥ちょとやりすぎた‥‥‥‥調節って難しい‥‥‥‥。


「‥‥‥‥うん。窓閉めようか」


 窓を閉めるのは手動でした。なぜ?─────気分だよ!


「‥‥‥‥リオ様?」


「お姉さん?何かありました?」


「─────な、何もないよ?ちょっと空気入れ替えたほうがいいかなってね」


 めっちゃ不自然な言い訳に、みんなが不審な目で見てくる。

 ─────やだな、みんな。蜘蛛の巣だらけだったなんて知りたくないでしょ!?ざわっとするでしょざわっと。 


「あぁ─────大変。シロ君がボサボサになっちゃった~(棒)」


 すかさずキラッと眼鏡が光るサラさん。─────ゴメンねシロ君。

 シロ君を生贄にして、お姫さんに声をかけにいく。


「調子が悪いなら『治癒』かけてみる?」


「‥‥‥‥うん。でも、なんかさっきまですごくつらかったのに、今はなんか楽になってきた感じ‥‥‥‥」


 さっきまで枕から頭が上がらなかったようだが、今は平気そうに起き上がる。

 心なしか、おかめ顔からホラー線が消えている。

 

 ん~?こんな短時間で体調って変わるもんかいな?

こういう場合は何かな?『鑑定』?『ナビ』か?あ、そうだ。


「『診察』」


─────ひゅおっと顔面すれすれに表示が出る。


『なんだいなんだい!ちょっと疲れてるだけだよっ!若いんだから栄養あるもん、たんと食べて、あったかいお布団で寝りゃあ問題ないさねっ!あ、頭は別もんだよっ!』


 ─────どっかの世話焼きオカンが出た。


「‥‥‥‥うん。疲労のようだから、休んでいれば問題ないみたいだけど‥‥‥‥『治癒』する?」 


「それなら休んでます。お姉さんの『治癒』って‥‥‥‥超強力ですもんね」


 ‥‥‥‥なんか、いろんなのが出ちゃうかも‥‥‥‥。


 小声でつぶやいてるけど、聞こえてるよ! そんな色々出ないよっ!‥‥‥‥出ちゃうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る