第24話「ビニールプール」

 ライブツアーは成功のうちに終了したが、次に出すアルバムのレコーディングやら打ち合わせやら、やることはまだ沢山ある。今回使うスタジオは駅から少し歩いた住宅街の中にあって、直斗なおと影三えいぞうの二人が通りかかった家の玄関先で、子供がビニールプールで遊んでいた。

 お揃いの水着を着てはしゃぐ女の子二人はどうやら双子のようだ。それを横目に通り過ぎてから、影三が、

「俺、実は双子なんだよね」

 唐突にそう切り出した。

「それは、初耳だな」

「うんまあ、親から聞いた話だから俺にも実感ないんだけどね」

「どういう事? 小さい頃に亡くなったとか」

「半分当たり。医者に双子だって言われてたのに、産んでみたら俺しか居なかったんだってさ」

 そういえばネットか何かでそんな話題を目にしたことがある。つまり影三は『ミッシングツイン』というやつらしい。

「俺に兄ちゃんがいるってのは前に話したろ? その名前が栄一えいいちで、俺が影三」

「二が抜けてるな」

「そゆこと。生まれるはずだった方は英二えいじって名前にするつもりだったらしいよ」

 親御さんの心情は想像することしか出来ないが、消えてしまったもう一人のために、せめて名前だけでも存在した証を残しておきたかったのだろうと、直斗はそう思った。

 影三は特に深刻な話を打ち明けてるというつもりはないのだろう。だから、直斗も世間話として話を続ける。

「お前がもう一人いたら、どっちがギターのリードを取るかで揉めそうだな」

「いや、負けねえし」

「あんま浩也ひろやを困らせるなよ」

 住宅街に、女児の笑い声と水音がはじけた。

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