第21話「朝顔」

 全国を巡るライブハウスツアーが始まった。遠征先の宿は、まあまあいい感じのホテルだったけど、四人で一部屋なものだから、気分は修学旅行だった。

 枕が変わると眠れないタイプではないけれど、何となく朝早くに直斗なおとは目が覚めた。一人煙草を吸っていると、影三えいぞうが寝室から出てきた。興奮して寝ていられないという様子に、まるで小学生のようだと直斗がからかうと、お前もじゃねえかと影三にやり返されて、二人で声をひそめて笑う。

 まだ寝ている泥谷ひじや浩也ひろやを起こさないように、直斗と影三の二人はホテルを出た近所を散歩してみることにした。

 近くの公園では子供たちやお年寄りが集まってラジオ体操をしていて、それを見た影三が、やはりというかなんというか、俺らもやろうぜ! と公園に入っていく。

 早朝の清冽な空気の中、少しばかり場違いな二人が曲に合わせて身体を動かす。

「高校以来じゃね?」

「意外と覚えてるもんだよな」

 ホテルに戻ると、チェックイン時には気付かなかったが、入口に朝顔の鉢植えが飾られていた。普段、直斗が動き出す頃にはすっかり萎んでしまっているだろう花の、生き生きと咲き誇る姿を見て、直斗は、さて今日も頑張るかと気合を入れた。



「そういや影三、小学生の頃、夏休みの宿題に朝顔の観察ってあったよな?」

「俺、早々に枯らしちゃってさ、母ちゃんが代わりにキュウリ植えてた」

「そんなことある?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る