第16話「レプリカ」

 スタジオ練習中に浩也ひろやのギターの弦が切れてしまった。

 弦の張り替えを待ってる間、休憩室で雑談しているうちに、自分が初めて買った機材についての話になった。

「最初に買ったのはストラトのリッチーモデルだったなー」

 雑誌に書いてあることを鵜呑みにして、ピックアップを自己流で交換してみたら音が出なくなり、兄貴に泣きついて修理してもらったと影三えいぞうが恥ずかしそうに語る。

「俺の場合はドラムのスティックになるんすかね。どれ選べばいいのかなんてわかんなかったから、名前だけでイアン・ペイスモデルを選んで、今でもそれ使ってますよ」

 まあ、叩けば音が出るんでと、泥谷ひじやは頓着していない様子だ。スタジオやライブハウスのドラムセットを使うことが多いドラマーならではの感覚なのかもしれない。いや、ギターやベースのアンプだってそうだったなと直斗なおとは思い直す。単独ライブで客を呼べるようになった最近になって、ようやく自前のアンプを持ち込むようになったのだから。

「直斗は俺と一緒に買いに行ったよなー。お茶の水まで行ってさ」

 二人で楽器屋を片っ端から見て回り、お互い喋る元気もないほど疲れ果てながらも、買ったばかりのベースを大事に抱え、電車に揺られて帰った記憶。

 憧れのミュージシャンにあやかりたいと、心のどこかで思いながら買ったレプリカモデルのベースギター。

 今の俺たちの演奏は、オリジナルになれてるだろうか。

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