第15話「解く」

「あのバンド、首になっちゃいました」

 ライブを見に来てくれた浩也ひろやが、打ち上げの席でぽつりと言った。ギタリストの任を解かれたと力なく笑う彼が、長い前髪の奥でどんな表情を浮かべているのかはわからないが、落胆しているのは明らかだった。

 直斗なおとが窓の外に目を向けると、急に降り出した雨に、通行人が慌てて建物の屋根下へと駆け込んでいく様子が見える。

「はぁ!? 浩也お前、ギター俺より上手いじゃん! なんで? もったいねえ!」

「俺のギターは地味でつまんないんだそうです」

 影三えいぞうは心底納得がいかないといった顔をしている。納得がいかないのは直斗も同じだ。確かに影三のように派手で目立つ演奏をするタイプではないが、ベーシスト目線で言わせてもらうならば、あのバンドでの浩也は誰よりもリズム感がしっかりしていて、他の連中が演奏しやすいようサポートに徹していた。それを理解せず、「地味でつまらない」だなんて、あのバンドも馬鹿なことをしたものだと思う。そう思ったから、

「じゃあさ、うち来ない?」

 言葉がするりと口から出てきた。

「いいですね、直斗センパイの他に、もう一人バッキングしっかり構えてくれるギターがいると、影三センパイが好き勝手……、いえ影三センパイの演奏が映えると思います」

 斜向かいの席に座っていた泥谷ひじやも、うんうんと頷いている。影三はというと「あっ、ズルい。直斗に先越された!」と、何故か悔しそうにしていた。

 外の雨はまだ降り続いている。傘は持ってきていないが、止むまで四人で飲み明かせばいいだけだ。積もる話は山ほどあるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る