第14話「お下がり」

 町内会に居た、レコード会社の元重役だというおっさんから紹介してもらった人のおかげで、全国のライブハウスから出演依頼が来るようになった。それも、対バンを組ませてもらえる相手は、その地で人気のバンドばかり。おかげで、ファンだと言ってくれるひとが少しずつ増えてきた。

 正直なところを言うと、交通費をギャラから賄えるようになったおかげで、バイトを増やさずに済んだのが何よりもありがたかった。

 リハが終わって開場までの時間、楽屋で対バンの連中と話をする機会も増えた。そんな時、機材の話はいつだって盛り上がる鉄板ネタだ。

 それぞれ音作りの拘りや機材への愛着を聞くのは楽しいが、

「コイツのギター、親父からのお下がりなんだってよ。ギタリストのくせにこんなしょぼいのしか持ってないなんて、恥ずかしいっすよね」

 こういうヤツもたまに出てくる。自分の機材でもないのに、よくもまあ好き勝手言ってくれるもんだと、直斗なおとは思う。ギターを貶された彼はというと、長い前髪に隠された目にどんな表情を浮かべているのだろう。口元だけは笑みのようなものを浮かべて曖昧に相槌を打っていた。

 直斗が何か言ってやろうかと口を開きかけた時、横にいた影三えいぞうが素っ頓狂な声をあげた。

「これ、トーカイのレスポールじゃん! 俺、本物初めて見たよ。お前良いギター使ってるなぁ!」

 前髪の長い彼は、影三の言葉に今度は輝かんばかりの笑顔を浮かべる。

 これが、由比 浩也ゆい ひろやとの出会いだった。

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