第10話「ぽたぽた」

 卒業式は生憎の雨だった。卒業生は入場の合図があるまで渡り廊下で待機している。直斗なおとが、桜の枝を伝ってぽたぽたと落ちる雨粒をなんとなく眺めていると、列の先頭から影三えいぞうがやってきた。

「おい、列から離れてると怒られるぞ」

「平気平気、来賓のナントカって人がまだ来ないとかで先生慌ててるからさ、始まりそうもねーんだよー」

 影三の言葉を聞いた周囲の生徒が、だったら教室へ一旦戻るとか指示してくれりゃいいのに、主役の俺らがこんな場所で立ちっぱなのは勘弁してもらいたいなどと、口々に不満を言い始めた。

「で、何だよ」

「そういやさ、直斗と初めて会ったのも、こんな雨の日だったよな」

「いきなりなんだよ。まあでも、そうだったな。俺はあの日、転校の手続きで、親に書類持っていけって言われた帰りだったんだよなあ」

「あの日、めちゃくちゃ雨降っててすげー困ってさ、だからホント、助かったんだよ」

「そりゃ何よりだ。あっでも、あの時の傘、まだ返してもらってないな?」

「……おや、そろそろ始まるみたいだ。 じゃあなー」

「あっ、逃げた」

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