第7話「酒涙雨」

「この歳で七夕って言ってもなぁ……」

 昇降口に置かれた笹飾りを眺めながら、直斗なおとは小さく呟いた。

 短冊には「甲子園出場」や「期末テストで良い成績が取れますように」などの真面目なものから、「五千兆円欲しい」「夜露死苦」といったふざけたものまで様々な願いごとが書かれている。

 外は今日も雨模様。週間予報を見る限り、七夕当日に織姫と彦星が会うのは難しそうだ。

「雨が降ったときは、カササギが天の川に橋をかけてくれるそうですよ」

 横からひょっこり現れた古文の教師が教えてくれた。七夕飾りの短冊には、勉強や習い事のように、自分で達成できそうな技術の向上を願うものなのですよ、とも。

「そっか、じゃあ俺の願いはでっかくいこう! ドームでライブ!」

 短冊に書き込む影三えいぞうの横で、泥谷ひじやは、妙に達筆な字で「オルドビス紀」と書いていた。なんだそれ。

 書き上げた短冊をそれぞれ笹飾りに括りつけた後で、影三が尋ねた。

「そういや直斗は何て書いたんだよ」

「ナイショ」

「あっ、ずりぃ!」

 笹飾りをかき分けて直斗の短冊を探そうとする影三と、それを阻止する直斗がじゃれ合っていた。

 揺れる短冊、書かれていたのは、


「影三の夢が叶う時、隣にいるのが俺でありますように」

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