第6話「アバター」

 新年度を迎え、新入部員となった泥谷 貴正ひじや たかまさはドラムの経験者だった。そこで直斗なおとは担当をギターからベースに替え、晴れて三人軽音部はバンドとしての体裁を整えることができた。

 吹奏楽部が最近買い替えたドラムセット――、の古い方を使わせてもらえるよう、古文の教師が取り計らってくれたので、音楽準備室から視聴覚室まで、毎度三人で運んでいる。ギターアンプもセッティングして、演奏の準備は万端だ。

「ところで、なんで俺らケータイで会話してんだ?」

 三人は、それぞれ楽器を構えながらも、ケータイの画面に向かってあれこれと打ち込んでいた。

影三えいぞうセンパイが最近ケータイ持つようになったから、使い方教えてくれって話から始まったんですけど、そこからは俺にもさっぱり……」

「なあヒジ、お前がいま出したこのちっこい絵はどうやるんだ?」

「絵文字ですか? この記号って書いてあるとこ押して……」

「影三もいい加減にして、練習始めようぜ。……いやでもちょっと待て泥谷、名前んトコのこれ、アバターっていうんだっけ? これ何?」

「ああこれっすか、三葉虫です」

「古生代の生物だっけ? ……よし! 絵文字出せたぜ!」

「今ちょうど化石持ってますけど、見ます?」

「なんで持ってるんだよ……」


 演奏は、まだ始まらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る