第12話 新天地へ

「うわっ、なにこれ!」

「……アーちゃん女王様みたい」

「う、うるさいわよ」


 布を買いに行っていたアカネとルナがやってくるなり、目の前に広がる光景を見て驚きそうつぶやいた。


 どういうことかというと、今現在アリアロッテの周囲には多くの男たちが屍をさらし、まさに死屍累々ってとこだ。どうしてこうなったか、それは俺たちが馬車3台と馬を金貨30枚であっさりと買ったこと。それを見ていた男たちがわらわらと集まってきて、アリアロッテを襲撃し始めた。俺もいるんだが、俺のところには数人しか来なかった。おそらく男である俺より女であり、なおかつ美人なアリアロッテのもとに集まったのだろう。

 また、なぜアカネが女王様といったのか、それはアリアロッテの手の中に鞭があるからだ。アリアロッテって、普段は弓を使うんだが、近接になると鞭を使う。なんでも一番使いやすくしっくり来たのが鞭だからだそうだ。

 そうつまり、今現在の光景は男どもの死体の中心に立つ鞭を持った女王様ってとこだな。


「それより、布は買えたの?」

「うん、買ったよ。結構かわいいのいっぱいあったよね」

「うん、あとで見せてあげる」

「それは楽しみね」


 和気あいあいと話し始める3人、すでに男たちへの興味はなくなっている。ちなみにだが、男たちは生きているからな。死体のように気絶しているだけだ。



 その後、倒れた男たちは兵士たちが片づけていったわけだが、俺たちに何らかのお咎めが来ることはなかった。それというのも、門の前という立地から当然門番などをはじめとして兵士が数名ばっちりと目撃していたし、何より俺たちは襲撃された側であることは明白だからだ。といっても一応注意だけは受けてしまったが。


 さて、それはともかくとしていよいよ昼前という時刻となり、通りの向こうから子供たちがぞろぞろと集まってきた。その先頭にはニックが居り、最後尾にはミガルドと数人の大人が子供を抱いた状態でやってきた。


「よう、エリベルト待たせたな」

「いや、それより」

「ああ、こいつらは俺の仲間でな。動けないやつがいたから運ぶのを手伝ってもらったんだよ」

「そうか」


 動けない子供ということを聞いて、若干怒りがわいたがそれを引っ込めてから言葉を発した。


「聞いているかと思うが、今日からお前たちを引き取ることになったエリベルトだ。よろしくな」


 なるべく笑顔で行ってみたが、できているかは不安だ。


「みんな、よろしくね。私はアカネって言うんだよ」

「私はルナだよ。みんなよろしくね」

「私はアリアロッテと申します。皆さんよろしくお願いしますね」


 俺に続いて3人も自己紹介をする。


「まぁなんだ、とりあえず乗ってくれ、一応馬車は3台、16人だからな5人ずつに分かれてくれ、ニックお前はあまりということで好きな馬車に乗ってくれ」


 こういう場合は年長者であるニックに余ってもらおうというわけだ。


「わかった、ほらお前ら大丈夫だから乗れ」


 ニックは年長者として慕われているようで、動ける子供たちはそれぞれ馬車に乗り込んでいく。一方で、動けない子供たちもミガルドの仲間たちが抱き上げて馬車に乗せていくが、動ける子供でも馬車に乗れない小さい子供いるために、そうした場合は俺たちが抱き上げて乗せる。


「よしっ、みんな乗ったな。確認してくれ」

「大丈夫よ。こっちは5人乗っているわ」

「こっちも6人乗っているよ」

「5人いるよ」


 ちゃんともれなく乗り込んでいるようだな。


「それじゃミガルド俺たちはいくな」

「おう、こいつらをよろしく頼むぜ」

「ああ、任せてくれ、それじゃな」


 というわけで、俺たちはミガルドたちに見送られて馬車を走らせ街を出たのであった。

 ちなみに門番にはすでに街の孤児たちを連れだすことは伝えてあったので、出るのはスムーズにいったのだった。




 そうして馬車に揺られることしばし、俺たちの目の前にはダンジョンがある森が見えてきた。


「兄ちゃん、俺たちどこに行くんだ」


 ここにきて俺が操る馬車に乗り込んでいる、ニックとは別の10歳の少年が聞いてきた。


「俺たちが住んでいる場所だ。ちょっと特殊な場所だがいいとこだぞ。安全だしな」

「そうなのか、ってそこ森だぞ」


 話しながら俺が馬車を森の中に突っ込ませるものだから少年が驚いている。


「いいんだ。この森の中にあるからな」


 首を傾げている少年をよそに俺は馬車を進めて、ダンジョンの近くまで戻ってきた。


「よし、ここだ。さぁみんなついたぞ降りてくれ」

「ついたって、ここ何もないじゃないか」

「わたしたちだまされたの」


 何もない森の中で降ろされると不安になってしまったみたいだ。


「大丈夫だって、ここは俺たちの住処なんだよ。ほら、ここに洞窟があるだろこの先だ」

「そうそう、外からはわからないけど、広くてきれいな場所だよ」

「ようこそ、ここが君たちの新しいお家だよ」


 少し前につくことを伝えていたからか、ミサリオがメイドたちを引き連れてダンジョンから出てきた。


「俺たちの仲間でミサリオだ」

「みんなよろしくね」


 そういうミサリオではあるが、子供たちを見て一瞬顔をしかめる。あれは子供たちが明らかにやせこけている姿を見たからだろう。


「さぁ、みんな中に入って、あなたたちは動けない子を抱っこしてあげてもらえるかな」

「かしこまりました」


 ミサリオの指示を受けたメイドたちが一斉に動き出して、動けないで座り込んでいる子供たちを優しく抱き上げていく。


「ついてきてね」


 ミサリオは子供たちをざっと見渡した後、ダンジョンの中に戻っていき、それにアカネが続いたことで、少し安心したのか子供たちも後をついていく。


「兄ちゃん、ほんとにここなのか」

「なんだ不安かニック」

「そ、そりゃぁ」

「大丈夫だ。俺たちを信じろって、まぁ、正直俺たちは普通ではないからな」

「エリベルト、馬車などはしまうわよ」

「おう頼む」


 俺の答えを聞いたアリアロッテはすぐさま馬車をアイテムボックスにしまい、馬の足元には転送陣が輝いた。これで馬はダンジョン内にある厩に運ばれたはずだ。

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