第11話 買い物

 この街の孤児たちの最年長であるニックが、俺たちとの交渉に応じてくれた。これで、この街の孤児を引き取ることができそうだ。


「それじゃ、ニックお前はほかの奴らをかき集めてこい、それで、エリベルトどこに行けばいいんだ」

「そうだな。俺たちもその間に用があるし、昼前に南門の前でいいだろう」

「だそうだ。いいかニック」

「わかったよ」

「うし、それじゃまた後でな」


 ということで俺たちはその場を後にしたのだった。


「交渉うまくいって良かったね」

「だな」

「ええ、でもこれからが大変よ」

「そだねぇ。子供が31人、大きい子もいるけれど大変そうだね」

「そうだな。普通の子供でも大変だと思うが、これまでのことを考えると余計にな」

「ああ、そうだよね。まぁ、そこはミサリオにお任せってことで」

「いくら保育士やってたからってああいうのは経験ないと思うぞ」


 日本の保育士では、さすがに孤児、それもまさにストリートチルドレン状態の子供たちの世話経験はないだろう。


「それもそうね。私たちもできる限り協力していきましょ」

「それもちろんだよ。私だって子供は好きだし、ミサリオだけにいい思いをさせないよ」

「あははっ、そうだな」


 俺は少し子供は苦手ではあるが、嫌いなわけではない。むしろ子供は好きな方ではある。だからこそ孤児を見て気になって仕方がなかった。


「それでそれで、私たちはこれから何をするの?」

「そうね。まずは子供たちを連れていくための馬車と馬の確保ね。こちらは私がやるわ」

「それって私たち持ってない?」

「持っているけれど、普通じゃないでしょあれ」


 アカネの言う通り俺たちも馬車は持っている。もちろん馬も、だが馬車は見た目が普通だが中が拡張されており、子供を16人乗せても余裕なほどだ。さすがに人前でそんな馬車を使うわけにはいかない。


「乗っているところ見られたら、間違いなく密入国の車だね」

「あっそっか、あのどれだけ乗っているの? ってやつ」

「そうそう、あれの逆バージョンだけどな」


 テレビでよく見るのは降りてくるシーンだが、俺たちの場合乗るシーンとなってしまう。これは少々目立ってしまう。


「それに馬だって普通の馬じゃないでしょ」

「足が8本だからな」


 俺たちの馬、それはスレイプニールという足が8本ある。それもまた出すわけにはいかない。


「というわけで、この街で買う必要があるんだよ。あっ、そういえばあいつらは大丈夫だよな」


 ディアルブ達も俺たちと同じように孤児を連れてくるはず、その際にちゃんと馬車を購入していればいいけど。


「大丈夫でしょう、ディアルブは警察官なんだから」

「そういえばそうだったな。なら……んっ、なんだ噂をすれば」


 噂をしていたと思ったらディアルブ本人から通信が来た。


「どうしたディアルブ」

『おう、ちょっと気になってな。お前らちゃんと馬車と馬はこっちの使ってるよな』


 まさかの俺たちと同じ心配をしていたらしい。


「あはは、問題ないちゃんとこれから馬車を買うよ。ていうか、俺らも今その話をしていたんだよ」

『あはははっ、まじか。それじゃ大丈夫だな。それで、子供はどうだったんだ』

「問題ない。昼前に集めて、出発するつもりだ」

『そっか、ならちょうどよく合流できそうだな』


 どうやら向こうも俺たちと同じような状況みたいだ。


「それじゃ、あとでな」

『おう』


 ディアルブとの通信を切ったところで今のやり取りを3人に話すとみんなも笑っていた。


「ああ、そうそう布を大量に買うんだよね。私それ行ってくる」

「あ、私も一緒に行ってくるよ。女の子もいるしかわいい布を探しましょ」

「うんうん、それじゃ、エリエリ、アーちゃん行ってくるね」


 そう言ってアカネはルナとともにさっさと行ってしまった。


「早いな」

「まったくあの子はいくつになっても落ち着きのない」

「まっ、それもアカネだろ」

「そうだけどね。振り回されるこっちの身にもなってほしいわよ」

「あはははははっ」


 ルナとアカネが布を買いに行ったので、俺の役割としてはアリアロッテのお供ってとこか。


 そういうわけで俺とアリアロッテは門近くにある厩へと向かったのだった。



「こんにちは、馬車を3台とそれを引く馬を欲しいのですが、よろしいですか?」

「馬車3台! そいつはまたいきなりだな。まぁ、あるが金あんのか」


 厩につくなりアリアロッテがそういったものだから、主にいぶかしむ目で見られた。


「ええ、問題ありません。それでいくらになりますか?」

「金貨30枚だ」


 金貨30枚というのはかなりの高額となるわけだが、正直言って俺たちなら全く問題ない値段だ。


「そうですか。ではこちらを、それでどの馬車を売っていただけるでしょうか?」

「! も、申し訳ありません。た、ただいまお持ちいたします」


 金貨が詰まった袋を見せたとたん、主が手のひらを変えて応対を丁寧なものにし始めた。尤も、別の視線も感じるようになったんだけどね。


「こちらの馬車をお使い下さい、馬はこちらです」

「ありがとうございます。ではこちらを、確認して下さい」

「い、いいえいいえ、お客様を使用しておりますればそのようなことは不要です」

「そうはいっても、こちらも間違っているかもしれないですから、確認してくださらないですか?」

「か、かしこまりました」


 ということで主が金貨を数えだし、少ししたところで終わったみたいでほくほく顔だ。



「あとは待つだけだな」

「そうね。退屈、はしなそうね」

「みたいだな」


 買ったばかりの馬車の前で子供たちやアカネとルナを待っていると、特に待ってもいないやつらが近づいてくるのが分かった。面倒だな……

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