第8話 初仕事

「どうする。何か受けるか?」

「ねぇ、ねぇ、君たち今登録したんだろ、俺たちがいろいろ教えてやろうか?」


 登録が終わり、何か以来でも受けようかと話そうとしたところ、突如そんな声がかかった。声をかけてきたのは3人の男。


「そうそう、そんな奴ほっといてさ、俺たちが手取り足取りさ」

「へへへっ」


 何やらというか、明らかに下心満載って連中だ。まぁ、3人とも普通に美女だから、こういうイベントが起きてもおかしくない。


「申し訳ありませんが、私たちと彼はパーティーを組んでいますから、お断りします」

「うんうん、エリエリ以外の人と組むつもりないよね」

「うん、ごめんなさい」


 3人はすかさず断りを入れている。そのあまりの素早さに声をかけてきた男たちは憮然としている。


「それで、エリベルト何を受ける?」


 そして、あっさりと無視して俺に尋ねてくるアリアロッテ、うん、なんというか哀れだな。


「ねぇ、これなんてよくない」

「どれ? って、これ私たちじゃ受けられないよ」

「えっ、そうなの?」

「まったく、聞いてなかったの、私たちのランクは鉄で、この依頼は銀以上よ」

「あっ、ほんとだ。えへへっ」


 アカネが受けようとしたのはオーガの討伐で、これは通常銀ランク以上となっている。尤も、俺たちなら問題なくオーガぐらい倒せるだろうけど、でも実際には先ほど登録したばかりの鉄ランクである以上受けることはできない。


「俺たちにできるのはこのあたりだな」

「どれどれ、えっと、グレイラット討伐、グレイラットってなに?」

「ラットいうぐらいだからネズミだろうな」

「直略では灰色のネズミよね。えっと、一応魔物みたいだけど、生息場所は……」

「地下道ってなっているね」

「地下道?」

「ちょっと受付で聞いてみようか」

「そうだな」


 その後俺たちは再び受付の元へ行き、この依頼の詳細を聞いた。それによると、どうやらこの街には領主の城からの脱出路として地下道が存在しているという。今回の依頼であるグレイラットはその地下道に生息しているネズミ系の魔物であるとのことだ。ちなみにその地下道俺たちが入ってもいいのかと思って聞いてみたところ、この地下道は脱出路として使っていたのははるか昔で、今現在はすでに城側も逆に街の外に通じる方も塞いでありただの通路でしかないとのことだった。


 というわけで、依頼を受けた俺たちはその地下道への入るための入り口へと向かうことにした。


「ここが入り口?」

「みたいね」

「なんか汚いね」

「まぁ、場所が場所だからな」


 地下道の入り口がある場所は、スラム街一歩手前の場所となっているために周囲からめっちゃ汚い。いやま、日本と比べると街そのものも十分汚いんだけどね。

 さてと、それはいいとしてさっさと中に入ろうというわけで、地下へ降りていく



 地下道にはところどころ明かりの魔道具でもあるのか、微妙に明るく一応周囲を見ることは可能となっているようだ。


「さてと、さっそく始めようか」

「そうね、ゲームでは幾度となくやってきた戦闘だけど」

「リアルでは初めてだもんね」

「う、うん、ちょっと緊張するね」

「確かにな。ゲームと違ってこれは本当に命のやり取りだからな」

「ちょっと、そういう風に言わないでよ」

「でも、実際にそうなのだから自覚しないといけないわよ」

「そうだけどさぁ」


 俺たちはこれまでゲーム内ではさんざん魔物を狩ってきたが、その魔物はゲームのシステムによるものであり、ただのデータだから当然そこに命はない。しかし、これから戦うグレイラットは間違いなく生きている存在となる。それを討伐、つまりは殺すことになるわけだから、俺たちの間には妙な緊張感が漂っている。

 ちなみに、ダンジョンを出てから森を通り、街道に出たわけだがその際には魔物は全くでなかった。その理由は前日にセビスチャンたちが倒したことが理由だろう。


「おっと、話している間に来たみたいだぞ」


 地下道に出たところで話し込んでいると、不意に暗がりの方から巨大なネズミが姿を現した。間違いなくあれがグレイラットだろう。


「ほんとだ。それじゃ、まずは誰からやる」

「とりあえず、俺からやるか」

「いいの?」

「いつものことだからな」


 こういう討伐では、いつも最初に動くのが俺だったりする。ましてやこれから命のやり取りをするわけで、3人はそれに恐れを覚えている。まぁ、俺もだが、3人よりは比較的それが小さいと思うからここは俺が先陣を切るべきだろう。


 というわけで、さっそく腰に差した剣を抜き放つわけだが、実はこの剣は俺の愛用のものではない。それというのも愛用の剣は正直攻撃力が高すぎる。それに対してグレイラットは新人冒険者向けの魔物だけあって、超絶的に弱い。そんなものに愛用の剣を使うと明らかにオーバーキルしてしまうからだ。まぁ、とはいえ自力自体が高いから結局変わらないんだけどね。


 そう思いながら襲ってくるグレイラットを、交わしざまに剣をゆっくりと振り下ろすと、これまたあっという間にグレイラットが真っ二つとなった。


「ふぅ、思ったよりもやばかったな」


 もう少し力を入れていたらグレイラットが爆散していた。


「手加減がかなり難しいぞ。これ」

「まぁ、それは仕方ないわよ。それより魔石と討伐証明部位をとらなきゃ」

「おっと、そうだったな」


 アリアロッテに言われて、先ほど倒したグレイラットに近づき、腰に持つナイフを手に取り突き刺した。


「うわぁ、やっぱりリアルだとグロいな」


 ゲームだとさすがにこれは普通にドロップとして残るが、リアルだとさすがに自分で解体しないといけない。魔物とはいえこういった解体はあまり好めるものではない。


「で、でも思ったよりは大丈夫じゃない」

「確かに、私こういうの苦手なはずなんだけどな」

「もしかしたら、異世界に来たことでそういったことが平気になったとか、俺も今グレイラットを倒したってのに忌避感がまるでない」


 今俺が言ったように普通なら命のやり取りをしたわけだから、何か忌避感のようなものがあってもおかしくない。なにせ俺は普通の日本人なんだから、当然といえば当然だ。


 それはともかく、そのあと俺たちはそれぞれがグレイラットを始末してあっさりと依頼をこなしたのだった。

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