第7話 お疲れさん

 少しわき道にそれたが話を戻すと、俺は最近ソロ活動している。

 そんなある日のことだったゲーム内の家にて、今日は何をするかなっと考えていると不意にアリアロッテがログインしてきた。


「あっ、やっぱりいた」

「おう、久しぶり1週間ぶりぐらいか」

「そうね。1週間ぶりね」

「仕事はいいのか」

「ああ、あそこは辞めたわ。だからしばらくはこっちにこれそうよ」

「お、おう、それはよかった。でいいのか?」


 仕事を辞めたということは果たしていいことなのかよくないことなのか。


「いいことよ。あのままあそこにいたら過労死しそうだったし」


 アリアロッテが辞めた会社はいわゆるブラック企業で、しばらく休みなく働かされていた。確かに彼女の言う通りいつかそうなっただろう。


「はははっ、まぁ、それでこの後はどうすんだ?」


 仕事を辞めたといっても、この後の生活があるためにまた仕事を探す必要はあるだろう。


「それなら今日履歴書を出しておいたから大丈夫よ」

「おう、早いな。それで、次はどんなとこなんだ?」

「あなたの会社よ」

「……はっ?」


 一瞬アリアロッテが何を言っているのか理解できなかった。えっ!? どういうこと、俺の会社、はっ?


「前に誘ってくれたじゃない。あれから考えてあなたの会社のことも調べてみて、事業内容とかも興味深かったから、思い切って転職しようと思ったのよ」

「え、ええと、いいのかうち安月給だぞ」


 以前聞いたアリアロッテの月給は明らかに俺より多く、ショックを受けた記憶があったが、まさかそれを捨ててくるとは思はなかった。というか誘ったのは半分ぐらい冗談だったんだけどな。


「もちろんわかってるわよ。それでもあの会社よりもずっといいわよ。あ……も……し」


 最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったがまぁ、本人がいいのならいいのか?


「まぁ、そういうことなら人事に知り合いいるから一応言っておくよ」

「ありがとう」

「それで、今日はどうするんだ。といってもそろそろ夕方なんだが」


 このゲームの0時ちょうどは現実時間では0分のため、ログインした時間が45分ならゲーム内では18時あたりとなる。それで今ゲーム内ではその18時少し前、つまり夕方である。


「そうね。今日はさすがにやることないけれど、もう少ししたらあの2人もログインしてくるはずよ。だから明日のことを話しましょ」

「おっ、2人も来るのか」


 そんな会話をしていると、上の方からバタンという音とともに、ドタドタドタという音が響いてきた。


「噂をすれば、か」

「みたいね。全くあの子はいくつになっても」


 俺たちはそれぞれ拠点としてこの家を設定し、ログイン場所を自室としているわけだけど、その自室というのが2階にあるために上から音が響いてきたというわけだ。ちなみにこんな音を立ててやってくるのはあかねんしかいないからアリアロッテがあきれているというわけだ。


「やっほー、久しぶりーエリエリ」

「ああ、久しぶりあかねんは変わらないな」

「まっねー。あっ、でもすっごく疲れたよー」


 あかねんはいつものように元気いっぱいだが、本人が言っているようにかなり疲れているようだ。俺も結構長くパーティーを組んでいるだけあってそれが分かるようになっている。


「あかねんはほんとに元気だよね」


 その後すぐにルナ3がゆっくりと下りてきた。


「ルナ3も久しぶり」

「久しぶり、はぁ、疲れたぁー」


 あかねんと違いルナ3はソファーに頭から倒れた。この姿もまた俺たちがいかに長く一緒にいるかということが分かると思う。なにせ、俺たちは現実世界で2年、といってもここ数か月あまりあってはいなかったが、それでもたとえば1年だとしても、ゲーム時間だと24年ぐらい一緒にいるというわけだからな。まぁ、実際にはそこまで長くはないけど、ほら夜になればログアウトするし、2時間やると1時間ぐらい休むしね。それでも相当な時間だ。


「2人とも最近休みもなかったみたいだから」

「まじかっ、まぁ確かに、テレビつけると2人が映っていたような気がするしな」


 本業アイドルである2人は、現在アイドル活動のほかにバラエティ番組はもちろん歌番組、最近では女優までやっている。


「あっ、見てくれてるんだ。ありがとー」

「あれだけ出てたら、嫌で目に入るって、ていうかそんなに疲れてるなら休んでたらいいんじゃないか」

「ああ、それはダイジョブ、というかそれより魔物倒してストレス解消したい」

「そうそう」


 2人にとっては肉体的な疲れよりも精神的なものがあるらしく、ストレスも相当にたまっているようだな。


「それじゃ、今日はあれだけど明日どっか適当に狩りに行くか」

「うーん、それもいいけどぉ」

「ダンジョンいこ、ダンジョン」

「ダンジョンかぁ、いいとこあったかなぁ」



 それから俺たちは話し合って適当なダンジョンを攻略することになったのだった。



「ねぇねぇ、今日はエリエリなにか作ってよ」

「俺がか?」

「そうそう」

「あっ、それいいかも」

「うんうん」


 話し合いが終わりそろそろ夕飯でもというところで、あかねんから今日の飯は俺が作ってくれと言い出し、それにほか2人が同意した。まぁ、3人とも相当に疲れているみたいだし、俺もこの2年の間に現実とゲーム内でそれなりに料理をしてきたので、以前みたいにまずい飯というわけではない。尤もそれがうまいかというと疑問が残論だが、まぁいいだろ。


「わかった。それじゃ、ちょっと待ってろ」

「やったねっ!」


 こうして、久しぶりに再会やお疲れ様、という意味を込めた宴会を開き、1日を終えたのだった。









 余談だが、現実での翌日、会社の人事担当にアリアロッテの話をしてみたところ、信じてもらえなかった。そんな優秀な人材がうちみたいな会社に入るわけないだろうと。しかし、数日後本当に履歴書が届いて、担当者が俺のところに飛んできた。そこで、アリアロッテがいかに優秀かということや人柄なんかを話して聞かせたところ、実は面接前に採用が決定となってしまった。だから形だけの面接を行うことになったわけなんだが、なぜか俺まで同席させられたのはなぜだろう。まあその結果アリアロッテが応募理由を語る際に俺の名を普通に出していたことで、俺の評価がちょっと上がった。こんな優秀な人材をスカウトするなんてすごいと、最も逆にそんな人物とどうして知り合いなのかとかなどを聞かれまくったが。また、それからしばらくして実際に入社してきたアリアロッテだが、部署が俺と同じになり、なんというか本当にすごい活躍を見せてくれたのはいいんだが、問題が発生している。というのもアリアロッテって、実は普段の言葉使いが敬語なんだよ。これは誰に対してもで、本人やあかねん曰く親相手でも敬語なんだそうだ。つまりこれまでアリアロッテが敬語を使わなかったのって、実はあかねんとルナ3だけだったらしい。そんな中で俺もまた敬語は使わない。それは現実でも同じとなる。つまり、アリアロッテは社内で俺だけにため口となっている状態だ。おかげで俺たちがどんな関係だと疑われまくることになる。

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