第3話
豚の怪物をマジカル道路標識でぶん殴ったら、数メートルぶっ飛んで自動販売機にぶつかっていった。
『プシュー』
くの字に曲がった自動販売機からは飲み物が散乱し、吹き出している。
「はわわぁ、あのおじさん強いのですぅ」
「私達の魔法が通じなかった敵を一撃で…凄い」
『ガダンッ』
「ん? あ、まだ生きてた」
流石にそんな簡単には倒せないのか。
倒れた自動販売機から立ち上がる怪物、落ちているペットボトルを踏みつけながら、此方へゆっくりと向かってくる。
「ぶひぃ! 良くもやり上がったな!! ぶっ殺してやる! 生きて帰れると…ぶはっ!」
怪物の槍よりリーチの長い道路標識、一方的にぶん殴れる。
「あ? 豚が人間様に何立てついてんだ? おら!」
「ぶはっ!」
「さっきまでの威勢はどうした?うりゃ!」
「がはぁ!」
「雑魚が調子こきあがっあてよ!」
「ぶひぃっ!」
「オラ! オラ! オラ!」
「ぶはっ!ぶひぃ!ぐはっ!」
「ミンチにしてやんよ!」
俺は今、圧倒的強者! 雑魚いたぶるの超気持ちいい!
「ふぅ」
ちょっと殴り疲れた。
殴る以外に攻撃手段は無いのかな?
試してみるか。
俺は倒れた怪物に向かって鼻を、
『ホジホジホジホジ』
お、デカイのが取れた。
「トキメキハートにキラメク夢! 星の皆の力を貸して! ラブリーステッキ!」
取れた鼻くそに魔法をかけた。
『ピンッ』
敵に目掛けて鼻くそをデコピンで飛ばす。
『ぴちょっ』
あれ? 怪物に張り付いたが威力は無い?
「ホワイトの魔法はステッキ状の物にしか発動しないにゃ」
猫の解説が入る。
「なら鼻くそ丸めないで、細長くすれば良かったのか?」
「今まで鼻くそに魔法掛けた魔法少女なんて居なかったから聞かれても困るにゃ。それより早くトドメを指すにゃ」
「わかったよ」
「お前に怨みは無いが10万円とドスケベエルフソフィーナちゃんの為。これが最後だ、へへっ」
俺は悪い笑みを浮かべる。
道路標識を大きく上へ振りかぶり、最後の一撃を。
「ぶひぃ! ちょ、ちょっと待った! なんだ10万円とドスケベエルフって」
「待たねぇよ豚野郎!」
『ポンポン』
いいところで肩を叩かれた。
「あ? 今良いところだから邪魔すんなよ」
『ポンポン』
「だから邪魔すんなって、てめぇから先にぶっ飛ば…え?」
振り替えるとそこには警察官が二人。
「え…っ? 」
「職務質問しようとした警察官に向かってぶっ飛ばすですか?」
「あ、いや…え~と、すみません…」
人見知りでニートの俺からしたら警察は…苦手…
夜に近くのコンビニ行くだけで何度職務質問されたか。
そんなに俺は怪しいか?
「こんな所でそんな格好して何してんのかな?」
自分の格好を見る…豚の血で赤く染まったドレスに、両乳首丸出しの格好…誰がどう見ても完全に変質者。
これ…なんて答えれば良いの?
「あ~…いや…別に…ただの散歩を…」
「そんな格好で? ちょっと身分証明出来る物は有る?」
「あ、いや…免許とか持って無く…て」
冷や汗が止まらない…
「名前は?」
「佐藤武です」
「住所は?」
「高校近くにあるアパートの302号室に住んでます」
「年齢は?」
「36です」
「仕事は何してんの?」
「え? あ~、自宅警備員です…」
「は? ふざけないで、仕事は?」
「すいません…仕事はしてないです」
「じゃあ無職ね?」
「…はい」
「ところで、その手に持ってるのは?」
「…棒です…」
「違うよね、それ道路標識だよね? それどうしたの?」
「落ちてました…」
「落ちてた?」
「…」
「…」
「…引き抜きました」
「器物破損だね」
『ジャリ』
物音で振り向くと、豚の怪物が逃げようとしていた。
「あっ! てめぇ逃げようとすんじゃねえ!」
「君、この豚を殴ってとよね? 動物虐待じゃないのかな?」
「え!? 違います! こいつはジャークナーの怪物で!」
「怪物?」
警察官が豚の怪物を見る。
豚の怪物は四つん這いになり、
「ぶ…ぶひぃ」
こいつ…豚のふりをしやがった。
「…」
「…」
ゆっくり俺と警察官の目が合う。
「話しは署で聞こうか」
「え?! ちょ! 俺は世界平和の為に! あっ、猫!喋る猫がいて俺に戦えって、猫! 何処行った!? 警察に説明して! 猫!」
「精神鑑定も依頼しないと駄目かも知れないな」
「すいません、今のアニメの設定です。今季のオススメで」
「ふざけてるの?」
「違うんです…違うんですけど…すいません…」
警察官によりパトカーに乗せられている俺を、2人の魔法少女はポカーンっと見ていた。
この日、街の平和を守った俺は裁判により執行猶予が付いた。
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