第29話「答え」
「あ、起きた」
「……
「何度呼び鈴押しても返事がないから、いつもの場所に置いてあるキーボックスの鍵使って中に入らせてもらいましたよ」
それで部屋に入ってみれば、浩也がゲームのコントローラーを抱えたまま床で寝落ちしていたので、ベッドに運んで寝かせたのだと泥谷が話す。
彼とはバンドが解散した後も、何かと一緒に仕事をしたり飲みに行ったりする機会が多い。他のメンバーとも連絡を取り合ってはいるのだが、皆それぞれ新たな活動の場を得て忙しくしているようだ。
「あ、ゲームはちゃんとセーブしてから電源切っておいたので安心してください」
浩也はベッドから起き上がって周囲を見回す。電源の落とされたパソコンのモニター、泥谷がチャンネルを切り替えたのか、昼のワイドショーが映っているテレビ画面。棚にはエフェクターラック、壁に並べて掛けられたギター。そこは間違いなく自分の部屋の中だった。
「えっと、おはようございます?」
「まだ辛うじて午前なので、ギリおはようセーフですねー」
「そっかあ……、夢オチだったのかあ」
「何か面白い夢でも見てたんすか?」
「えっとね、『エスケープ・ザ・ルーム』を攻略してた」
「それって確か、浩也さんが好きなゲームのタイトルですよね?」
「うん、生首の女の子と一緒にね……。隠し部屋も登場する大冒険だったよ」
泥谷が冷蔵庫から取り出したミネラルウォーター入りのペットボトルを受け取り、蓋を開けて中身を一口飲む。喉を通る冷たい刺激に、浩也の意識は次第にはっきりとしてきた。
「脱出ゲームウィズ生首。めちゃくちゃ面白そうですねそれ」
「そうだね、凄く……楽しい夢だったよ」
どこから来たのかもわからない、本当の名前すら知らない生首だけの女の子。彼女は無事に元の世界へ帰れたのだろうか。それを確かめる手段は自分にはないのだけれども、元気でいてくれたらいいなと浩也は願うばかりだ。
浩也の向かい側に腰を落ち着けた泥谷が、持参してきたと思しき缶コーヒーを飲みながら、そういえばと話を切り出した。
「この間ヘルプで参加した知り合いのライブに、ゲーム会社のひとが来てたんすよ」
「相変わらず泥谷君は交友関係が広いねえ。それで?」
泥谷の話によると、その人は新作タイトルの楽曲を担当してくれるひとを探しているとのことだった。なんでも、ゲームプロデューサーの大谷という人から、候補として浩也の名前が挙がったらしい。それで、同じバンドのメンバーだった泥谷の伝手を頼れないかと声を掛けてきたそうだ。
「ゲームの音楽を担当できるなんて、そりゃあ願ってもない話だけど……、なんで俺なんだろ?」
「さあ?
泥谷と浩也は二人揃って首を傾げる。
「まあでも、ゲーム音楽は前からずっとやってみたいと思ってたからね、話聞いてみようと思う」
「わかりました。じゃあ俺から連絡しておきますよ」
大谷というひとのことは全く知らないし、何がどう気に入られたのかはわからない。その答えは、会ってみればわかるだろう。
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