第26話「故郷」
「いやまさか、一番最初の部屋で俺を繋いでた手錠がここで役に立つとは思わなかったなあ。これが無かったら詰んでたところだったよね」
「私は、私がまた重りになるしかないと思ってたわ」
「なるほど、それでも良かったか」
「もう、置き去りにされるのは勘弁してほしいわ」
通路の手すりに手錠を繋ぎ、押し下げたレバーの先端を引っかけたことで、扉は無事開いたまま固定され、まりのと浩也は四角い光が差す方へとたどり着くことができた。
「えっ……」
「どうかしたの?」
そこは、小さな劇場のような場所だった。ただし客席は無く、ステージの反対側にはバーカウンターやバーテーブルが置かれている。ほんの階段一、二段分高いだけのステージの上にはドラムセットが置かれていて、その他に大きなスピーカーがいくつも並んでいた。
「ははは……、今度は俺が『この場所知ってる』だ」
「そうだ、ちょっと待っててよ」
浩也はまりのをステージに向くようにバーテーブルの上に置く。背後で何やら音がしたかと思うと、まりのの前に水色の液体が満ちたカクテルグラスを置いた。
「私、まだお酒が飲める年じゃないわよ」
「大丈夫、これノンアルコールカクテルだから。えーっと、名前が確か『ブルーシンデレラ』とかいうやつだったかな」
まりのは、グラスに挿された細身のストローを吸う。ほんのりと甘酸っぱい、炭酸の刺激が口の中に広がった。
「これで彼氏にしちゃいけない3B達成かな……ふふふ」
「なんでそんな嬉しそうなのよ」
まりのは呆れたが、本人が楽しそうなのでまあ良いかと思うことにした。いつもなら部屋に入るなりすぐ謎解きを始める浩也だから、この場所は本当に、浩也にとって特別な場所なのだろうことがわかる。
「他にも何か作れるかな。そうだ、この際だから棚の一番高いお酒開けちゃおうっかな」
「もう、すっかり目的忘れてるわね」
とはいえ、この『脱出ゲーム』の中に来てからというもの、ずっと休みなしで進んできたのだ。少しばかり息抜きしたっていいはずだろうと、頭の後で響く、グラス同士が触れる音を聞きながら考える。すると、
――いつの間にそこにいたのだろう。ステージの上に立つ、男の人と目が合った。
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